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“空間を仕切らない”が正解? 台湾の店舗設計に学ぶ“抜け感”の真実

台湾に店舗を出したい!

でも「設計は日本のやり方でいいの?」「現地のデザインはちょっと感覚が違う…?」と悩む方は少なくありません。

そのギャップを象徴するのが、“抜け感”というキーワードです。

台湾では視線が通り空気が流れるオープンで柔らかな空間が好まれます。

これは日本の設計者が当たり前に考える「きっちり仕切る」「密度を高める」空間とは正反対の発想かもしれません。

では、なぜ台湾では“抜け感”がこれほどまでに重視されるのか?

本記事では、気候・文化・設計思想の違いから現場での実践まで、豊富な実例とプロの視点から徹底解説します。

台湾で成功する店舗設計を実現するヒントを、ぜひ掴んでください。

台湾デザインに見る“抜け感”の正体とは?

「抜け感」はどこから来た?台湾の都市構造との関係

台湾の街を歩くと、路面店舗のガラス張りや、奥まで見通せるレイアウト、屋根だけのオープンスペースなど、「視線が遠くまで抜ける空間」が多く見られます。

これが“抜け感”と呼ばれる台湾店舗デザインの特徴のひとつです。

この背景には台湾の都市構造があります。

特に台北や高雄のような都市部では建物が道路に直接面していることが多く、間口を広く取る設計が好まれます。

日本のようなセットバック(建物と道路の距離)文化が少ないため、街と店との境界があいまいになるのです。

また、台湾の建物は鉄筋コンクリート構造(RC造)が一般的で、間仕切り壁が少ない設計が可能です。

その結果、奥行きのある空間をそのまま活かした視線の抜ける店舗づくりがしやすくなっています。

こうした都市構造が“抜け感”重視のデザインを生み出すベースになっているのです。

この点は、日本の「隠す」「仕切る」といったプライバシー重視の設計思想とは対照的です。

街とつながる開放的な空間づくりは、台湾ならではの都市構造から育まれたものと言えるでしょう。


台湾人が好む“開放感”と空間心理学

台湾人が空間に対して求める感覚には、“開放感”が非常に強く影響しています。

これは気質や文化的背景にも関係していますが、実際に心理学的にも「視線が遠くまで届く空間」や「壁の少ない空間」は人に安心感と自由さを与えることが知られています。

台湾人は、商業空間でも“詰め込まれていない”空間を好む傾向があり、「広さ=豊かさ」と捉える文化があります。

狭くてゴチャゴチャした店よりも、多少商品数が少なくても空間にゆとりがある店舗の方が高級感や居心地の良さを感じるのです。

特に飲食店やカフェでは、隣の席との間隔が広く、店内中央をあえて空けて“間”をつくることが一般的です。

これにより、来店者が空間全体を一目で見渡せるようになり、安心して過ごせる空気感が生まれます。

こうした空間感覚を日本側の設計士が理解していないと、「せっかく作った空間がなぜか好かれない」という事態にもなりかねません。

開放感のある設計とは何か?

その心理的価値を理解することが、台湾で支持されるデザインをつくる第一歩です。


高温多湿な気候が与える影響とは?

台湾の気候は年間を通じて湿度が高く、気温も30度を超える日が多い熱帯〜亜熱帯気候です。

この気候が、実は空間設計にも大きな影響を与えています。

高温多湿な環境では、空気の流れを確保し、風通しを良くすることが非常に重要です。

そのため、台湾の店舗では「抜け感」のある設計が自然と求められるようになります。

壁で空間を区切ってしまうと熱がこもりやすく、湿気も溜まりやすくなってしまうからです。

また、天井付近に小さな開口を設けたり、通風窓を活用することで、空気が自然に流れるように設計する手法も一般的です。

これは視覚的な抜け感だけでなく、実際の「風の通り道」を意識した工夫です。

この点は、日本の四季のある気候とは大きく異なります。

日本では断熱や冷暖房効率を優先して密閉性を高める設計が多いため、同じ設計思想をそのまま台湾に持ち込むと「重く」「蒸し暑く」感じられてしまうのです。

台湾の気候特性に合わせた“軽さ”と“風通し”をどうデザインに落とし込むか。

これが台湾で成功する空間設計の大前提になります。


天井高・窓の大きさが生む視覚的抜け感

台湾の建築でよく見られるのが「高い天井」と「大きな窓」。

これは“抜け感”を生み出す最も直接的な手法のひとつです。

まず、天井の高さですが、台湾では一般的に日本よりも天井が高い建物が多く、特に新築ビルでは3.2m〜3.5m程度の天井高が標準的です。

これにより、圧迫感がなく、空間全体に開放感が生まれます。

また、窓についても、ガラス面を大胆に広くとる傾向があります。

店舗の正面にガラス張りを採用することで、外から中がよく見えるようになり、「入りやすい空間」としての印象を与える効果もあります。

これに対し、日本ではプライバシーや冷暖房効率を重視して、窓面積が小さい、もしくは目隠し的な設計が主流です。

特に都市部ではスペース効率の都合で天井高も抑えられがちです。

天井の高さや窓の大きさといった物理的要素が、空間の“雰囲気”に与える影響は大きく、ここでも台湾と日本の設計思想の違いがはっきりと表れます。


家具・什器の配置にも見える“軽さ”の美学

“抜け感”は建築そのものだけでなく、インテリアの配置や選定にも強く反映されます。

台湾の店舗では、家具や什器が「詰め込まれていない」「床が見える」「背が低い」など、視線の邪魔をしない工夫が随所に見られます。

例えば、什器はできるだけ脚のあるデザインを選び、床が抜けて見えることで空間全体が軽やかに感じられます。

また、背の高い棚は壁側に集約し、中央スペースには低い展示台やスツールを置くことで、目線の通りを確保します。

什器の素材も、ガラスや金属フレームなど、“重たくない”印象のものが好まれます。

逆に、日本で一般的な木製のどっしりした什器や、商品を大量に並べるディスプレイは「圧迫感がある」と感じられることも。

このように、什器ひとつにも“視線を遮らないこと”を意識した選定と配置があり、それが空間全体の“抜け感”に寄与しています。

家具の重心を下げて空間の視覚的バランスを取る。

こうした美学が、台湾の空間デザインにはしっかりと根付いているのです。


歴史と文化から探る台湾のデザインマインド

中華文化と日本統治時代の影響

台湾の空間デザインには、多様な歴史的背景が複雑に絡んでいます。

特に大きな影響を与えているのが、中華文化と日本統治時代の建築様式です。

この2つが融合することで、台湾独自のデザイン思想が形づくられてきました。

まず中華文化の影響としては、「風水」や「東西南北の配置」に対する強いこだわりが挙げられます。

建物の入口の向き、トイレや厨房の位置、鏡の設置場所まで、すべてに意味があり、それが設計に反映されます。

空間は単なる“機能の配置”ではなく、“気の流れ”を重視する場でもあるのです。

一方で、日本統治時代(1895年〜1945年)には、道路やインフラの整備とともに、日本式の建築や街づくりが導入されました。

特に、公共建築や商業建築の中に、シンメトリーで端正な構造美、日本的な木造の技術、さらには細部へのこだわりが今も見受けられます。

そのため、台湾の店舗設計には「柔軟で自由な発想」の中にも、「秩序と整理された空間」の要素が共存しており、非常にユニークです。

歴史の文脈を知ることで、台湾デザインがなぜ“抜け感”と“整然さ”を両立できるのかが理解できるでしょう。


居住文化が与える店舗空間への影響

台湾の住空間は、日本と比べて非常に「家族的」で「オープン」です。

ひとつの空間に複数の機能を持たせることが多く、リビングとダイニング、キッチンが一体になったようなレイアウトが一般的です。

この感覚は店舗空間にもそのまま反映されています。

日本では「店舗は非日常の空間」として、機能性と演出性を明確に分ける傾向がありますが、台湾では「店舗は拡張された生活空間」として設計されることが多く、居住感が強く出ます。

たとえば、ソファ席やリビング風の照明、家でくつろぐようなテーブル配置など、まるで誰かの家に招かれたような感覚になる店舗が増えています。

また、家族経営の店舗も多く、キッチンや作業スペースが客席と同じ空間内にあるケースも珍しくありません。

こうした「生活と商売のボーダーレス感」が、店舗デザインにおける“抜け感”や“オープンさ”につながっています。

つまり、台湾の店舗設計には、家のようにくつろげる、閉じすぎない空間が求められるということ。

それを理解せずに日本的な「過剰演出型空間」を提案してしまうと、地元の感覚とズレが生じてしまうのです。


台湾人の「住」と「商」の空間意識の違い

台湾では、「住」と「商」の空間に対する感覚が日本とかなり異なります。

日本では、住空間はプライベート、商空間はパブリックと明確に線引きされ、それぞれが異なるデザイン思想でつくられます。

しかし台湾では、この2つの境界がとても曖昧です。

例えば、1階が商業スペース、2階以上が住居というケースは非常に多く、商売の空間と生活空間が建物内で同居しているのが当たり前です。

このことが「誰でも気軽に入れる」「家の延長のような感覚で買い物を楽しむ」文化につながっています。

そのため、商空間も「生活の延長線」にあることが求められ、過度な演出や“作られた非日常感”はかえって浮いてしまう可能性があります。

たとえば、高級感を演出するために暗めの照明やシックな色調でまとめた店舗が、逆に「入りづらい」と感じられてしまうこともあるのです。

「住」と「商」の空間意識の違いを理解することで、台湾市場に受け入れられる設計提案が可能になります。

見せすぎず、隠しすぎず。

開かれた“自然な空間”を目指すことが、台湾デザインの核と言えるでしょう。


宗教・風水がレイアウトに及ぼす力

台湾では風水の考え方が今も強く根付いており、空間設計にも少なからず影響を及ぼします。

風水は迷信と捉えられがちですが、台湾では実際に多くのクライアントが風水師に相談し、設計変更が行われることもあります。

たとえば、店舗の入口の向き、レジカウンターの配置、トイレの位置、鏡の使い方、窓やドアの大きさなど、風水に基づくルールは数多く存在します。

これに従うことで「運気が上がる」「商売繁盛につながる」と信じられています。

また、神棚や仏壇を設ける場所の確保も重要で、これが設計の初期段階から話題になることもあります。

こうした宗教的要素は、日本人にはなじみが薄く見落とされがちですが、台湾では極めて重要なポイントです。

風水に対するリスペクトを持ち、設計者としてその意図を理解し柔軟に対応することが、台湾での信頼構築につながります。

専門的知識がなくても、「風水的な観点で配置に配慮しています」と一言添えるだけで、クライアントの印象が大きく変わることもあります。


ローカル市場で受けるデザインの共通点

台湾のローカル店舗に共通するデザインのポイントには、「明るさ」「視線の通り」「素材の温かみ」「手づくり感」があります。これらはいずれも、空間の“抜け感”や“親しみやすさ”と深く結びついています。

まず、照明は暗すぎず、昼間でも明るく感じられるように調整されているケースが多く見られます。

また、外から中が見えるようなガラスの使い方も工夫されており、店の中に入る心理的ハードルを下げる効果があります。

素材については、ナチュラルウッドやラタン(藤)、リネン、コンクリートなど、自然素材に近いものを多用する傾向があります。

これにより、温かみや素朴さが生まれ、「気取らない空間」としての印象が強くなります。

さらに、壁に手書きのイラストやメニューがあったり、DIY感のある什器があったりと、「プロが完璧に作った」よりも「オーナーが心を込めて作った」と感じられる演出が好まれます。

こうした“ローカルで受ける要素”を意識して設計に落とし込むことが、台湾で店舗設計を成功させるための大きなヒントとなります。


日本との違いから見える“設計思想”のギャップ

日本の「計画美」vs 台湾の「即興美」

日本の設計現場では、計画の段階で細かい寸法・仕上げ・施工手順までも決定し、その通りに進める「計画美」が重視されます。

図面は1mm単位まで正確で、現場でのアドリブは極力排除されるのが一般的です。

一方、台湾では“即興的”な設計・施工の進め方が主流です。

設計図は方向性やイメージを示すための道具であり、現場での判断や変更を前提として進める文化があります。

これは決して「いい加減」なのではなく、「柔軟性」として受け入れられています。

たとえば、現場で職人が「こうしたほうが早くて綺麗だ」と感じたら、オーナーの許可を得ずに、その場で変更することもあります。

また、素材やパーツの納期に応じて仕様変更が頻繁に発生するため、図面通りでないことは珍しくありません。

この違いは、日系企業にとっては大きなギャップとして感じられます。

「なぜ図面と違う?」「勝手に変えるなんてありえない」と思う方も多いでしょう。

ですが、台湾側からすれば「現場で最善を尽くす」のが常識なのです。

重要なのは、設計の「ゴール」と「プロセス」に対する価値観の違いを理解し、日本の完璧主義を台湾の現場にそのまま持ち込まないことです。


詳細な図面文化とアドリブ対応の違い

日本では、施工図や詳細図、展開図、電気設備図、什器図など、細分化された図面群が整然と整備されていきます。

そしてこれらの図面を通じて、設計者・現場監督・職人が一糸乱れぬ工程で施工を進める仕組みが整っています。

対して台湾では、基本設計図をもとに現場で話し合いながら「詰めていく」スタイルが主流です。

施工図をすべて作成するよりも、現場に行って「見て、決めて、作る」方が効率的とされるのです。

そのため、日本のように詳細図にすべての寸法や素材が描き込まれていないケースも多く、照明器具の位置や壁仕上げなどが現場の段階で決まることも珍しくありません。

日本の設計士が台湾の図面を見て「情報が少なすぎる」と戸惑うことはよくありますが、それは文化の違いによるもので、設計者のスキルが低いわけではありません。

むしろ台湾の設計者や職人は「現場で決める」「空間の中で感じ取って調整する」能力に長けており、図面に頼りすぎずとも高い完成度を生み出せる柔軟性があります。

この違いを理解し、図面の意図を現場で丁寧に伝える努力が、日本側の設計者に求められるのです。


日本の“密”を好む設計と台湾の“間”のとり方

日本の設計では、空間をいかに機能的に活用するかが重視され、特に都市部では1坪でも多くの機能を詰め込む「高密度設計」が主流です。

什器や設備、動線をギリギリまで詰めてレイアウトすることで、収益性や回転率を追求します。

それに対し、台湾では空間に「間(ま)」を持たせることが重要視されます。

特にカフェや雑貨店では、商品の陳列をわざと少なくしたり、壁一面を空白のままにして「余白」を演出したりする例もあります。

この違いは、単なる面積の活用法だけでなく、「空間に対する美意識の違い」でもあります。

日本では空間を効率的に使うことが価値とされますが、台湾では空間の“使われていない部分”が美しさや心地よさを生むと考えられています。

「間」の取り方は、店舗設計だけでなくオフィスやショールームでも重要です。

台湾で成功するためには、すべてを説明し尽くすようなレイアウトよりも、「あえて余白を残す」設計の感性を持つことが求められるのです。


構造と装飾の設計優先順位の違い

日本では、構造の安定性と設備の合理性が最優先で、装飾はその後に設計されるのが一般的です。

たとえば、設備配管をできるだけ隠す、構造梁をデザインの中に溶け込ませるなど、「目立たせない」ための工夫が多くなされます。

一方、台湾では装飾のインパクトを優先する傾向が強く、構造体や設備がむしろ“見えてもいい”という発想で設計されます。

電気配線や配管をむき出しにしたインダストリアルデザインが受け入れられているのもその一例です。

また、台湾の設計では、施工中の状況を見ながら「ここに照明を追加しよう」「壁面を変えよう」といった装飾的な変更が頻繁に行われます。

構造的な厳密さよりも、「見た目の良さ」「雰囲気の良さ」が重視されるため、装飾の後出しにも柔軟に対応できるのです。

このように、日本と台湾では「何を優先するか」の思想がまったく異なります。

日本式の“設計の順序”をそのまま台湾に当てはめると、現場で齟齬が生まれることになります。


納期とスピード感に対する価値観の差

日本では、スケジュール管理が極めて厳格であり、「いつまでに何をするか」が分単位で管理されます。

工程表も詳細に作成され、関係者すべてが共有することでスムーズな進行が図られます。

しかし台湾では、「納期=目安」という意識が強く、途中での仕様変更や調整が許容される文化があります。

これは柔軟性の裏返しとも言えますが、日本側からすると「進捗管理がルーズ」と感じられる場面もあるでしょう。

また、職人や現場監督が複数の現場を掛け持ちしていることも多く、日によって現場にいるメンバーが違うことも珍しくありません。

そのため、日本のように「この日からこの作業」とピンポイントでスケジュールを引いても、現実的にうまく進まないことがあります。

逆に、短期間で一気に作業を進める「スピード重視型」の動き方が得意で、「やるときは一気に仕上げる」という力強さがあります。

つまり、台湾では「全体の流れを見ながら柔軟に調整して完成に持っていく」ことが大切なのです。

このスピード感と柔軟性を理解し、日本的な“カッチリした計画”と台湾的な“流れに乗った実行”のハイブリッドを目指すことが、成功の鍵となります。


現場で感じる“抜け感”優先の設計実例

台湾のカフェ空間に見る「抜け」の演出

台湾のカフェは、特に“抜け感”の美学が強く表現される場所です。

台北・台中・高雄など都市部では、住宅街の一角に突如として現れるスタイリッシュなカフェが多数存在し、その共通点が「視線が遠くまで届く空間構成」です。

まず目につくのは、ガラス張りのファサード。

通行人が中を覗ける透明性があり、なおかつ店内から外の景色も楽しめる設計になっています。

視覚的にも心理的にも“閉じ込められていない”感覚を与えるため、初めて訪れる客も入りやすく感じます。

内装においても、白やベージュなどの淡いトーンを基調とした壁面、天井には無機質なコンクリートをそのまま見せる演出、照明も直下型ではなく間接光を使って空間全体を柔らかく包むように設計されており、「空気が抜けている」印象を強調しています。

席配置にも特徴があります。日本のように整列させるのではなく、空間に余裕を持たせて不規則に並べられており、グループでもソロでも快適に過ごせるよう考慮されています。

特に窓際や壁際にゆったりした1人席を設ける店舗が多く、居心地の良さにつながっています。

このように、台湾のカフェ設計では“視線の抜け”と“空気の流れ”が意識されており、その心地よさが顧客の滞在時間を延ばし、リピーター化へとつながっているのです。


飲食店でも“壁”をなくす設計とは?

日本の飲食店では、個室や半個室、間仕切りなどでプライベート空間を作るのが主流です。

しかし台湾では、その逆。あえて壁をなくし、視線の抜けるオープンな空間を作ることが好まれています。

特にローカルのレストランや麺類店、小規模な定食屋などでは、厨房と客席の境界が非常に曖昧です。

オープンキッチンはもちろん、厨房の調理風景がそのまま見える設計も多く、料理の香りや音までも空間演出の一部となっています。

これは、壁で“区切る”のではなく、“つながる”ことで生まれる安心感を重視する文化から来ています。

料理人と客、店主と地域住民が近い距離で接することで、空間に「温もり」と「親近感」が加わるのです。

さらに、壁をなくすことで空気の循環がよくなり、湿気やにおいがこもりにくくなるという実用的なメリットもあります。

特に湿度の高い台湾では、空調や換気計画の設計と連動した「抜けのよさ」が求められるため、壁の少ないオープン設計が非常に理にかなっているのです。

日本企業が台湾で飲食店を出店する場合、つい「仕切りたがる」傾向がありますが、ローカルの文化に寄り添うなら、壁を取り除く勇気も必要です。


店舗正面に窓を増やす理由と効果

台湾の店舗を歩いていると、どの業種でも正面に大きな窓や開放的なガラス扉が設けられていることに気づくでしょう。

この“開かれたファサード”こそ、台湾らしい設計思想の象徴です。

その背景には、「中が見える=安心・信頼できる」という心理的効果があります。

台湾では、ガラス越しに商品や内装、客層が見えることで「どんな店なのか」が即座に分かり、入店のハードルが下がるのです。

また、開口部を広く取ることで、昼間の自然光を最大限に取り込み、明るく清潔感のある空間を演出できます。

高温多湿な気候ゆえに、室内の湿気がこもらないように「視線」だけでなく「空気」も抜けるように設計されているのです。

デザイン的には、フレームの細いアルミサッシや鉄枠を用い、ガラス面を目立たせる工夫がされています。

窓を「壁」ではなく「ディスプレイの一部」として捉えることで、店舗全体が広告的役割を果たしているのも特徴です。

この“開いたデザイン”は、セキュリティや空調効率などとバランスを取りながら進める必要がありますが、台湾の空気感にフィットさせるためには非常に重要な要素です。


家具で仕切らない「視線の通り」の工夫

日本の空間づくりでは、家具や什器を使って機能ごとにエリア分けを行う設計が一般的です。

一方、台湾では家具による仕切りが最小限に抑えられており、「視線の通り」を確保することが重視されます。

これは、家具を“視線の邪魔”と捉える意識の違いによるものです。

台湾の店舗では、ソファや棚の背を低くすることで、空間に圧迫感を与えず、どこに何があるか一目でわかる構成にしています。

さらに、什器を壁付けにしたり、スチールフレームを活用したりして、「見えているのに邪魔にならない」デザインがよく採用されます。

こうした工夫により、空間全体が連続して感じられ、結果として“広さ”と“清涼感”を演出できるのです。

什器の配置だけでなく、素材選びにも抜け感の演出が表れます。

透明アクリル、金属メッシュ、ガラス、細身のフレームなど、視線が透ける素材が多用され、家具そのものが空間の広がりを邪魔しないよう工夫されています。

こうした「視線設計」を理解しないまま什器を持ち込むと、「ゴチャゴチャした店」として敬遠されることもあるため、日本側の設計者は特に注意が必要です。


設計時に重視される“風の通り道”

台湾の設計現場でしばしば話題になるのが、「風の通り道」です。

これは単なる換気の話ではなく、空気・光・視線が連動する“設計思想の中核”と言っても過言ではありません。

風の通り道を意識した空間では、入口と出口がはっきりとし、空気が自然に流れるレイアウトになっています。

例えば、店舗正面に広いガラス扉を設け、背面や側面に開口を設けることで、対流が起こるような設計が理想とされます。

このような設計は、換気だけでなく空間に“動き”と“抜け感”を生む効果があり、結果として居心地の良い空間になります。

特に、天井高があり窓が多い台湾の建築では、この風の流れが心地よさを左右する大きな要因になります。

また、風とともに「光」も流れるように設計することで、時間帯によって空間の表情が変化し、店舗に深みと魅力が加わります。

これは設計者にとっても、デザイン力を発揮できる重要なテーマのひとつです。

日本ではこうした“自然の力”に頼らず、機械的な空調でコントロールする傾向が強いため、台湾の空気設計には新鮮さを感じる方も多いでしょう。


台湾で信頼される設計になるために

“抜け感”を取り入れた設計提案のコツ

台湾で設計者として信頼を得るためには、単に日本の技術や美学を押し付けるのではなく、「台湾の文化や空間感覚に寄り添った提案」が求められます。

特に“抜け感”を理解し、それをプランニングに落とし込むことが重要です。

その第一歩として、初期段階から「どこを抜くか」を考える癖をつけること

視線が通る場所、風が抜ける動線、光が差し込む窓。

これらを軸に設計のラフを組むと、自然と“抜け感”のある構成になります。

たとえば、以下のようなポイントを意識すると効果的です:

設計ポイント抜け感の工夫
エントランス両開きのガラス扉で視線を通す
店内レイアウト中央に空間を設け、什器は外周配置
照明計画間接照明+自然光を活用
什器選定脚付き・背の低いタイプを選定
壁の設計ガラスパネルや半透明素材を利用

さらに、「家具は最小限にする」「余白は意図的に残す」「素材で抜けを表現する」など、細部の提案でも抜け感を表現できます。

日本では“空間の密度”が評価されることが多いですが、台湾では“抜け”そのものが設計スキルの証でもあります。

この文化的ギャップを理解し、台湾人の感覚に合った空間づくりができることが、信頼につながります。


台湾の建材・施工技術に合わせた設計工夫

どんなに優れた設計でも、施工現場がその通りに再現できなければ意味がありません。

台湾で設計をする上では、「現地の施工力」「使える建材の種類」「流通している部材」などをよく理解しておく必要があります。

たとえば、台湾では湿度に強い素材が好まれ、メラミン化粧板・アルミ・防水合板などの建材が一般的です。

一方、日本で多用される無垢材や漆喰などは、入手が難しいだけでなく、施工現場に対応できる職人が限られているケースもあります。

また、台湾では“平面と断面”の認識が曖昧なことが多く、詳細図があってもその通りに作られないことがあるため、「現場で調整される前提で図面を描く」ことが求められます。

設計者としては以下の対応が有効です:

  • 台湾の建材メーカーのカタログを事前に確認しておく
  • 実現可能なディテールに絞って図面を構成する
  • 現場で代替素材や仕様変更の可能性を見込んでおく
  • 仕様書に“代替案”を明記する

台湾の施工力を尊重しながらも、設計の方向性を丁寧に伝える──そのバランス感覚が、現地との良好な協業関係を築くカギとなります。


設計図にない「現場判断」への準備

台湾では現場での“即断即決”が非常に多く、施工中に予告なしで仕様変更されることもあります。

これは文化の違いであり、「より良く、早く、安く仕上げるための判断」として受け入れられているからです。

日本のように「図面に書いてあること=絶対」ではないため、設計者は常に「現場判断」を前提とした柔軟な準備が求められます。

具体的な準備方法としては:

  • 仕様変更の優先順位を明示しておく(例:A案→B案→C案)
  • 現場監督に対して「ここは変更してもよい」「ここは絶対守ってほしい」ポイントを明確に伝える
  • 現場で使えるサンプル写真や3Dイメージを常備する
  • クライアントとの打合せ時に“変更可能性”を共有しておく

つまり、設計段階で「すべてを完璧に描く」のではなく、「変化が起きたときの対応シナリオ」も含めて設計する姿勢が重要なのです。

柔軟でありながらも、意図をぶらさずに現場を導く──この力が、台湾での設計者としての評価につながります。


台湾人オーナーとの合意形成プロセス

台湾のクライアントは、非常にフレンドリーでオープンな方が多い反面、正式な図面や契約よりも、日々のやり取りで信頼を築くことが重視されます

このため、日本のように「書面で決まったからOK」というスタンスではうまくいかないことがあります。

特に重要なのが、“設計意図の共有”です。

図面や資料だけでなく、イメージ写真やスケッチを交えて、感覚的に理解してもらう工夫が効果的です。

また、以下のようなポイントも意識すると良いでしょう:

  • 「なぜこの設計なのか」を説明することで、変更が発生したときの理解が得られやすい
  • 定例打合せよりも、チャットアプリ(LINE・WhatsAppなど)での小まめな報告が好まれる
  • 数値や専門用語よりも「感覚的表現」で納得する傾向がある(例:「抜け感があって気持ちいい」など)

つまり、台湾のオーナーに信頼される設計者になるためには、“説明力”と“共感力”がカギになります。

図面に書いてあるから、ではなく、一緒に作り上げていく感覚が大切なのです。


「抜け感」重視の現場指示出しのポイント

台湾で設計通りに“抜け感”のある空間を完成させるには、現場での指示出しが極めて重要です。

なぜなら、図面に書かれていない細かなニュアンスは、現場で直接伝えるしかないからです。

以下のような指示出しの工夫が有効です:

シーン指示方法
天井や壁の“抜け感”レーザーでラインを示しながら高さと角度を現場で説明
什器配置養生テープや仮置き什器で実寸再現し、視線の通りを確認
光の広がり点灯状態での照明確認+現場での再配置提案
空調設備風の流れを確認し、通風の邪魔になるものを調整

また、台湾の職人は“図面より現物”を重視する傾向があるため、模型や写真、実例を用意しておくと非常にスムーズです。

そして何より、現場でのコミュニケーションを怖がらないこと。片言の中国語でも、ジェスチャーでも、真剣に説明する姿勢が伝われば、現場との信頼関係は必ず築けます。


まとめ|“抜け感”は台湾デザインの本質だった

今回のテーマ「台湾の店舗空間はなぜ“抜け感”重視?」を通して見えてきたのは、台湾の店舗設計には単なるデザイン手法を超えた文化的背景・気候条件・施工習慣・人々の価値観が深く関わっているということです。

台湾では、「見せる」「つなぐ」「流す」といった空間の“軽やかさ”が重視され、視線が通り、空気が巡り、人と人が交わるような設計が愛されています。

この“抜け感”は、見た目だけの話ではなく、「心理的な心地よさ」や「信頼関係の可視化」にもつながっています。

一方で、日本の設計者にとっては、図面重視・空間の密度・プライバシー確保といった思想が染みついているため、台湾とのギャップに戸惑うこともあるでしょう。

ですが、設計とは本来“人の暮らしや営みに寄り添うこと”。

その本質に立ち返れば、台湾の“抜け感”文化にもすぐに共感できるはずです。

日本の技術と台湾の柔軟性が融合すれば、これまでにない空間が生まれます。

この記事が、台湾出店を目指すみなさんの視点をひとつ広げ、「台湾の設計会社にも自信を持って依頼してみよう」と思えるきっかけになれば幸いです。

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