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日本の図面、台湾では通じない?設計文化の違いを徹底比較

日本企業が台湾に出店する際、必ずぶつかるのが「設計文化の違い」です。

図面にすべてを詰め込む日本と、柔軟な現場対応で進める台湾。どちらが正しい、間違っているという話ではなく、それぞれに背景と理由があります。

本記事では、この文化的な違いを読み解きながら、どうすれば日台の設計・施工がスムーズに連携できるのか、現場経験をもとに解説します。台湾での店舗づくりを成功させたいあなたへ、設計図を超えたコミュニケーションのヒントをお届けします。

図面の精度が命?日本の図面文化を解説

日本の設計図に求められる精密さとは

日本の設計図は、極めて高い精度が求められます。特に店舗内装のように多くの業者が関わるプロジェクトでは、「1ミリ単位」の調整が当たり前です。

なぜここまで精密である必要があるのかと言えば、図面がすべての工事の「共通言語」だからです。

照明、家具、空調、看板など、多岐にわたる業種が連携して一つの空間を作り上げるためには、図面が正確でなければ情報が正しく伝わりません。

日本では、CADによって詳細に作成された図面をもとに、建材の寸法や工事の範囲を正確に把握します。

そしてその図面をもとに職人たちは「その通りに作る」ことが求められます。

職人が自分の判断で変更を加えることは稀であり、設計者からの明確な指示なしに独断で動くことはリスクとされます。

この精密さが日本の店舗デザインの「完成度の高さ」や「再現性の強さ」に直結しているのです。

たとえば、チェーン店舗であれば、全国どこでも同じ品質の内装が再現されるのは、この図面文化のおかげと言えるでしょう。

意匠図・実施図・施工図の区別と役割

日本の図面文化では、意匠図(デザイン案)、実施図(工事のための設計図)、施工図(実際の施工に必要な詳細図)の3段階が一般的です。

それぞれの図面が持つ役割は明確で、プロジェクトが進行するごとにより詳細で実用的な図面へとステップアップしていきます。

  • 意匠図:デザインの意図を伝える
  • 実施図:建築基準法や素材選定などを反映した工事用設計図
  • 施工図:現場での取り付け方、寸法、納まりまで描きこむ実務図面

この段階ごとの図面があることで、クライアント・設計者・施工者の三者が「共通の完成イメージ」を共有しやすくなります。

なぜ日本ではミリ単位での調整が必要なのか

日本では、デザインの美しさだけでなく「納まりの美しさ」が求められます。

たとえば、壁面のパネルが数ミリずれていたり、照明器具が壁芯から微妙にずれていたりするだけで、「施工ミス」とされることもあります。

これは、日本の美意識に根付いた「整然さ」や「対称性」へのこだわりによるものです。

わずかなズレが空間全体の印象を損なうと考えられているため、現場での取り合いも非常に慎重です。

こうした背景があるため、図面段階でミリ単位まで追い込む必要があるのです。

職人と図面の関係性、日本特有の信頼構造

日本では「図面通りに施工する」という意識が徹底しています。

これは、職人たちが設計者の意図を深く理解し、図面を「設計者の代理人」として扱う文化によるものです。

そのため、図面が正確であることが職人の作業効率や品質に直結します。

逆に、図面に不備があると、それだけで現場が混乱し、追加費用やスケジュールの遅れを招くこともあります。

だからこそ、図面に「描かれていないことはやらない」「勝手に変更しない」姿勢が貫かれているのです。

完璧な図面が生む安心感とクレーム予防

完璧に作り込まれた図面は、クライアントにとっても安心材料です。

工事後に「こんなはずじゃなかった」といったクレームを防ぐ最大の武器が、正確な図面なのです。

契約時に図面をもとに合意形成しておくことで、施工後のトラブルも最小限に抑えられます。

このように、日本では図面が「信頼の証」であり、「クオリティ管理の根幹」として非常に重要視されています。

台湾設計会社の柔軟性、その正体とは?

図面よりも現場判断を重視する文化

台湾では、日本と比較して図面よりも「現場での判断」や「口頭でのやりとり」に重きが置かれる傾向があります。

これは、現場で柔軟に対応できることが「良い職人」や「優秀な施工者」とされる文化背景から来ているとも言えるでしょう。

つまり、「図面は目安」であり、実際の施工段階では現場で最も適した方法を職人自身が選び、対応するのが自然とされているのです。

このような柔軟性は、特に短納期や予算制限があるプロジェクトでは強みとして発揮されます。

“走図”とは?台湾独特の設計進行スタイル

台湾の現場でよく使われる言葉に「走図(ゾウトゥー)」というものがあります。

これは「走りながら図面を描く」、つまり現場が動きながら図面も随時修正されていくという設計進行のスタイルです。

日本のようにすべての図面が完成してから施工が始まるのではなく、部分的に進行しながら、現場状況や材料の可否、オーナーの判断を踏まえて図面が更新されていくのです。

この柔軟さは、特に変化の多い小売や飲食店業界においては重宝されています。

台湾の職人はなぜ「指示を待たずに動く」のか

台湾の施工現場では、職人が自ら判断して工事を進めることがよくあります。

日本のように詳細な図面を待つよりも、「経験則」や「慣習」に基づいて先に動くスタイルが評価される場面が多いためです。

この背景には、職人の高い現場経験値と「時間を無駄にしない」文化があり、施工のスピードを重視する風潮も強く影響しています。

ただし、これは必ずしも正確な結果につながるとは限らず、日本企業から見れば「勝手に変えた」と受け取られてしまうこともあるため注意が必要です。

柔軟な対応が可能な理由とそのリスク

柔軟対応が可能なのは、台湾の設計会社と施工会社の距離が近く、情報の流通が早いことも一因です。

また、意思決定のスピードも速く、図面の承認や変更も即日で対応されることが少なくありません。

一方で、その分「設計と現場の整合性」や「設計意図の正確な再現」にはばらつきが生じやすく、オーナーと設計者、現場の三者間での合意形成が不十分なまま進んでしまうリスクもあります。

柔軟設計が好まれる業界・店舗の特徴

台湾では、特に個人経営の飲食店、美容室、サービス業店舗などではこの柔軟設計が好まれる傾向があります。

これらの店舗は、短納期での開業やオーナー主導の設計変更が日常的であり、柔軟な対応力がむしろ求められます。

逆に、チェーン展開やブランド店舗などでは、日本式の図面文化が徐々に浸透しつつありますが、まだ一部にとどまっているのが現状です。


なぜこんなに違う?歴史と教育の影響

日本の工業化と製図教育の進化

日本の図面文化は、明治期以降の近代化とともに発展してきました。

特に戦後の高度経済成長期には、建築・製造・インフラの分野で精密な製図技術が求められ、その流れが建築設計や内装設計にも波及しました。

学校教育でも、建築学科やインテリアデザインの専門学校ではCADの操作はもちろん、「製図の正確さ」「納まりの美しさ」を徹底的に叩き込まれます。

その結果、図面は「責任の証」として認識され、1枚の図面が設計者の技量や誠実さを示すものとされてきました。

この文化は今でも根強く、図面が正確でなければ信頼を得られないという考え方が一般的です。

また、日本では「設計と施工は分離すべき」という思想があり、図面によってすべての仕様や寸法を明記し、第三者が施工しても同じ品質を実現できることが理想とされてきました。

台湾の設計教育と中国文化圏の影響

一方、台湾では欧米式のデザイン教育と中華圏特有の「人間関係重視」の文化が融合した独特の設計観が根づいています。

台湾のデザイン系大学では、欧米式のコンセプト重視・プレゼン重視の教育が行われる傾向があり、図面の精度よりも「空間コンセプト」や「ビジュアル提案」に重点が置かれることが多いです。

また、中国文化圏では「臨機応変」や「柔軟な対応」が高く評価されます。

計画を完璧に作って進めるよりも、変化に対応できる力こそが賢さとされる傾向が強いため、「現場で変更してもOK」「やりながら調整する」がむしろ自然と捉えられるのです。

図面に対する期待値と精度感覚の違い

日本のクライアントや施工者は、図面に「すべてが書いてあること」を期待します。

しかし台湾では、図面は「参考資料」に過ぎず、実際は口頭説明や現場調整が前提となっていることも少なくありません。

このため、たとえば「この寸法では施工できない」と日本側が図面を修正して戻しても、台湾側からすれば「現場で対応すればよい」と考えていることがあるのです。

こうした期待値のズレが、日台のコミュニケーションギャップを生む原因となっています。

オーナー主導設計 vs デザイナー主導設計

日本では、デザイナーが設計の主導権を握り、クライアントとの合意形成に時間をかけて進めるスタイルが一般的です。

一方、台湾ではオーナー主導で設計が進むケースが多く、オーナーの好みに応じて現場が次々と対応することが少なくありません。

これは、台湾では中小規模の店舗オーナーが自らデザインに深く関与することが多く、図面よりも現場でのやりとりやLINEでの画像共有などが重視される理由のひとつです。

図面管理の意識と責任の所在の違い

日本では「図面=契約内容」としての役割が強く、図面に記載された情報が法的にも重要な意味を持ちます。

図面に基づいて見積もりが作られ、変更があれば正式な図面変更として記録されます。

一方、台湾では「状況次第で柔軟に進める」という発想が強く、図面が変更されても口頭で済まされたり、最新図面が関係者に共有されないこともあります。

このため、「どの図面が正なのか」「誰がその変更を承認したのか」が曖昧になりやすく、トラブルの火種になることもあります。

このように、教育や文化の違いが図面に対する姿勢の差を生み、それが日台設計協業の現場で大きな影響を与えているのです。

トラブルになるのはどこ?実例から学ぶ

「図面通りじゃない」日本側の指摘に対する反応

日系企業が台湾で設計施工を行う際、よくあるトラブルの一つが「図面通りに施工されていない」という日本側のクレームです。

しかし台湾側としては、「この方が合理的だから変更した」「現場で寸法が合わなかったので調整した」といった意識であり、悪意があるわけではありません。

しかし日本側は「事前に報告もなかった」「勝手に変えられた」と受け取ってしまい、信頼関係が損なわれることになります。

これはまさに、図面に対する期待値の違いによるすれ違いの典型例です。

現場変更が図面に反映されない台湾現場の実情

台湾の現場では、実際に行われた施工内容が図面に反映されないまま工事が進んでいくことがよくあります。

たとえば、現場で「天井高が足りなかったから照明を別の方法で設置した」としても、設計者にフィードバックされないまま施工が完了することもあります。

このため、竣工図やアフター対応時に「どのように施工されたのか分からない」という事態が発生し、日本側が困惑することになります。

台湾で工事を行う際は、図面更新や現場確認の仕組みをあらかじめ整えておくことが重要です。

見積もりと図面の不一致が引き起こす混乱

図面に基づいて見積もりが作成されるのが日本の常識ですが、台湾では「図面には書いてないけど必要な工事だったから追加請求する」といったことが頻繁に起こります。

これは、図面が契約の根拠として弱く、あくまで「大まかな目安」として扱われる文化的背景があります。

このため、施工中に発生した追加項目について、事前合意がないまま請求が来るというケースもあり、金額面でのトラブルにつながることがあります。

図面承認が遅れるとどうなる? 台湾でのリスク

日本では、図面を承認してから施工に入るのが一般的ですが、台湾では「とりあえず進めておいて、細かい部分は後から調整する」という動き方をされることがあります。

そのため、日本側の承認が遅れると「いつまで待っても施工が始まらない」といった問題が起こりかねません。

逆に台湾側は「進めていいよね?」という感覚で工事を始めてしまうため、未承認の設計内容がそのまま実装されてしまうリスクもあります。

写真や動画でのやりとりが必要になる背景

こうした図面に対する認識の違いを埋めるためには、図面だけに頼らず、写真や動画、チャットアプリなどを使って「その場での共有」を重視することが重要です。

たとえば、現場の施工状態をLINEで動画撮影して送ってもらい、設計者が即時に確認・指示を出すというフローが現実的です。

このように、「紙図面」よりも「現場のリアルタイム情報」が重視されるのが台湾の施工文化であり、それを理解して対応することで、トラブルを未然に防ぐことが可能になります。


どうすればうまくいく? ハイブリッドな進め方

初期段階では日本式、現場段階では台湾式を活かす

日台間の設計・施工で最も効果的なのが「ハイブリッド戦略」です。

つまり、プロジェクトの初期段階(コンセプト設計、基本図作成など)では日本式の精密な図面管理をベースにし、施工段階では台湾現場の柔軟な対応力を活かす方法です。

例えば、最初に意匠図と実施図を日本基準でしっかり整備し、工事フェーズに入ったら台湾側の現場監督と密に連携しながら、細かな納まりや現場の状況に応じて調整を進める。

この“計画は日本式、運用は台湾式”というアプローチは、両国の強みを活かした理想的な方法といえます。

ただし、この方法を成功させるには、各フェーズでの「決定事項」「変更範囲」「裁量権限」を事前に明確にしておくことが大切です。

図面レビューのタイミングと粒度を調整する

日系企業にとって重要なのが「図面の精査と承認」。

しかし台湾では、細かすぎる図面チェックがプロジェクトのスピード感を損ねる要因になることもあります。

そこで、図面レビューのタイミングと精度のバランスをとることが求められます。

たとえば、以下のようにフェーズ別に粒度を調整することが有効です:

フェーズ日本側の関与度必要な図面粒度
基本設計高(100%レビュー)意匠図レベルで細部まで
実施設計中(50〜70%レビュー)納まりや素材まで確認
施工図・現場対応低(随時確認)重要部のみピックアップ

重要なのは、「全部見る」ではなく「見るべきところだけ見る」意識です。

天井裏の機器配置やサインのサイズ、間接照明の納まりなど、こだわる部分を明示し、そこに集中する形でレビューを行えば、台湾側もストレスなく進められます。

柔軟対応を前提とした契約と工程計画

台湾の工事では「現場で変わる」前提で契約や工程表を組むべきです。

たとえば、日本では「図面通りならこれだけの工期」と積み上げていきますが、台湾では「実際は図面が変わるかもしれない」「オーナーが途中で追加を出すかもしれない」ことを想定して、工期に余裕を持たせるべきです。

また、契約書にも「現場対応で発生する変更指示については、◯◯時間以内に発注者へ報告・合意を得る」といったルールを盛り込み、曖昧な指示を避ける工夫が必要です。

金額面でも、変更が発生するたびに見積もりを再作成するのではなく、「変更一式◯◯元」として想定しておくか、「変更対応費用枠」をあらかじめ設定する方式が現実的です。

日台双方で合意する「図面以外の伝達手段」

台湾の現場では、紙図面やPDF図だけでなく、LINE、WeChat、Googleドライブなど、さまざまな方法で情報共有が行われています。

日本側としては、どのツールを使うのか、誰が確認責任者なのか、どの情報が正式なのかを明確にしておく必要があります。

おすすめは、下記のような情報管理ルールの共有です:

  • 図面変更は必ず「赤字PDF」で共有
  • LINEでのやりとりは週1回まとめて議事録に
  • 図面の最新版は常にGoogleドライブに保存
  • 写真共有はアルバム形式で日付・場所付きに整理

こうすることで、「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、図面と現場情報の一体管理が可能になります。

設計図に頼りすぎず、信頼と現場対応力を育てる

最後に最も大切なのは「人と人との信頼関係」です。

どれだけ図面を完璧に仕上げても、現場での対応力や判断力が伴わなければトラブルは避けられません。

逆に、多少図面が未整備でも、信頼できる現場監督がいればプロジェクトは成功します。

台湾の現場はスピーディーで柔軟です。

その力を最大限に活かすためには、細かすぎる図面で縛るよりも、意図をしっかり共有し、現場に判断を委ねる「ゆとりと信頼」が求められます。


まとめ:図面文化の違いを乗り越えて、より良い空間づくりへ

日本と台湾の図面文化は、背景にある歴史や教育、文化が大きく異なるため、誤解やトラブルが起きやすいポイントでもあります。

日本では、図面の正確性と再現性が重視され、すべてが図面に書き込まれることが当たり前です。

一方、台湾では、図面はあくまで参考情報であり、現場の判断や柔軟な対応が尊ばれる環境があります。

このギャップを理解し、相手の価値観に歩み寄る姿勢こそが、信頼関係を築く第一歩です。

そして両者の強みをうまく組み合わせることで、日本では実現できなかったスピーディーで柔軟な空間づくりが可能になります。

台湾で成功するためには、図面に頼りすぎず、現場と信頼を築くことが最も大切なのです。

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