「日本と台湾、同じアジアなのに、なぜこんなに店舗の雰囲気が違うのか?」
旅先で感じたその疑問。あるいは、台湾で出店を考えるあなたの“違和感”。
実はその答えは、デザインの奥にある文化と価値観にありました。
本連載の第1回では、日本と台湾の店舗デザインの“根本的な違い”を明らかにしながら、空間づくりのヒントを探っていきます。
デザインの表面だけを真似してもうまくいかない——だからこそ、「なぜそうなるのか」を一緒に読み解いていきましょう。
日本と台湾の商空間の美意識はどこで分かれるのか
デザインにおける「秩序」と「自由」の違い
日本の店舗デザインでは、「秩序」が重要視される傾向があります。
たとえば、陳列棚の間隔や什器の高さが厳密に設計され、清潔感のある整然とした空間が重視されます。これは、日本の文化に根付いた「調和」や「きちんと感」を大切にする価値観の反映です。
一方で、台湾の店舗では「自由」や「柔らかさ」がデザインの中に見られます。
例えば、同じカフェチェーンでも、台北では少し崩したレイアウトで植物がランダムに置かれていたり、壁の一部があえて塗り残されていたりすることがあります。これは台湾人の「個性重視」や「温かさを感じる空間」に対する志向が表れています。
日本が“ミスのない完成度”を目指すのに対し、台湾は“人間味のある完成度”を追求しているようにも見えます。
この違いは、現地の人々が空間に求める心地よさや、「完璧とはなにか?」という哲学の違いに直結しているのです。
マテリアルの選定基準が示す文化的価値観
日本では、無垢材や漆喰、珪藻土など自然素材へのこだわりが強く、見えない部分にまで高品質な材料を使う傾向があります。
これは、日本の「目に見えない部分にも魂を込める」という美意識の表れです。また、長く使うことを前提に、耐久性や経年変化の美しさが重視されます。
台湾では素材の「インパクト」や「手軽さ」が優先されることが多く、OSBボードやモルタル風塗装、アイアン素材など、安価でも見映えの良いマテリアルが好まれる傾向があります。
これは、流行の移り変わりに柔軟に対応する文化や、工期やコストのスピード感を重視するビジネススタイルとも関係しています。
素材選定の基準には、単なる価格以上に、その国がどのような「時間感覚」や「価値観」で空間を作っているのかが現れています。
“きれいすぎる日本”と“ラフで魅せる台湾”
日本の店舗空間は、全体に「整いすぎている」と言われることがあります。
直線的でシンメトリーな配置、規則的な照明、ミニマルなサイン計画——これらは確かに洗練されていて、美しい。しかし時として、「緊張感がある」「入りづらい」と感じられることも。
台湾ではラフな塗装、手書きの黒板メニュー、意図的に“はずした”デザインが多く見られます。
こうした空間は、訪れる人に安心感を与え、会話や行動の自由を許容します。この“抜け感”のあるラフさが、台湾の空間に自然と人が集まる理由の一つです。
両国ともに「心地よさ」を目指しているのですが、その定義がまったく異なるのです。
日本では「静けさや品のある美しさ」、台湾では「賑わいと自然体」が心地よさのカギなのかもしれません。
カラースキームに見る心理的背景
日本ではアースカラーやベージュ、グレージュといった自然に近い色合いが好まれます。
これは、和の伝統色や自然との調和を大切にする文化からきています。また、空間全体を通してトーンを統一する傾向があり、感情を穏やかに保つような色設計が多いです。
それに対して台湾の店舗では、原色やビビッドカラーを使った大胆な配色が多く見られます。
看板から内装、什器に至るまで、色によりブランドのキャラクターを強く打ち出すことが一般的です。これは台湾人の感性が色に対してポジティブで、明るさや活力を表現する手段として色を使うことが多いためです。
空間に使われる色からは、その国の気候、国民性、さらには商売に対する姿勢までが見えてくるのです。
見えないけど重要な「構造」への考え方
日本の設計では、構造計算や設備配置までを含めて「緻密な計画」が求められます。消防法や建築基準法に基づいた設計が必要であり、現場でも変更が起きにくい“計画通り”の工事が理想とされます。
台湾では、建築法規に柔軟な部分が多く、現場の判断による“臨機応変な施工”がよくあります。たとえば、設備の配管ルートを現場で職人が即興的に調整することも珍しくありません。
これはどちらが良い悪いではなく、「信頼の置きどころ」が違うということ。
日本では“図面にすべてを託す”、台湾では“人にすべてを託す”。この違いが、空間の成り立ちや設計者と職人の関係性にも大きな影響を与えているのです。
空間を構成する素材とその使い方に注目
日本の「素材の統一感」が作る落ち着き
日本の店舗空間を訪れると、まず気づくのは「素材の統一感」が生み出す落ち着きです。
木材なら木材、石材なら石材と、マテリアルを限定し、それを空間全体で反復使用することで、心を鎮めるような効果を生み出します。
例えば、カフェであればフローリング、テーブル、カウンターまですべてオーク材で統一されていたりします。
これは、日本文化において「一貫性」や「調和」が重んじられる価値観が色濃く反映された結果です。
また、照明のトーンや什器のデザインも、それに合わせて調整され、過度に目立つ要素は排除される傾向にあります。
結果として、訪れるお客さんは「空間に身を委ねる」ような体験ができ、商品やサービスにより集中できる環境が整っているのです。
台湾の「異素材ミックス」の魅力とは
一方、台湾の店舗空間では「素材のミックス感」が目を引きます。
たとえば、コンクリート打ちっぱなしの壁に、古木を使った棚を合わせ、さらにカラフルなプラスチック椅子が並ぶような、多様な素材が一堂に会する空間も珍しくありません。
この異素材の組み合わせは、混沌としているように見えて、そこに“生きた感じ”や“遊び心”が宿るのが特徴です。
台湾人にとって空間は「自由にカスタマイズできるキャンバス」であり、完璧に整えることよりも、意外性やユーモアを重視する傾向があります。
古いものと新しいものを組み合わせるのも得意で、リノベーションされた建物にビンテージ家具と最新の照明器具が共存していることもあります。
この“雑多さの中にある美”は、日本ではあまり見られない独特の魅力です。
素材のコスト感覚の違いと経済背景
日本では、天然素材や国産材にこだわる傾向があり、それに見合うコストがかかることも受け入れられています。
たとえば、杉の無垢材を使った什器は高価ですが、それが“店の格”や“持続性”の象徴と考えられているのです。
一方、台湾では、デザイン性とコストのバランスを優先する場面が多く、見た目が似ていれば合板やプリント合板でもOKとされるケースが一般的です。
そこには「短期で回収し、次の展開を目指す」というビジネス的なスピード感が背景にあります。
つまり、素材の選定にはその国の経済状況や、商習慣、投資回収期間に対する感覚が色濃く反映されているのです。
仕上げ精度と“現場力”の違い
日本の現場は非常に精密です。ミリ単位の精度を求めることが普通で、仕上げの美しさには絶対的な価値が置かれます。クロスの継ぎ目ひとつにも厳しいチェックが入り、完璧な状態で引き渡すのが当たり前とされています。
対して台湾では、多少のズレや不揃いがあっても「気にしない」ことも多く、むしろそういった“人間的なゆらぎ”が味わいとされる場合もあります。その分、工事のスピードは早く、現場での判断力や柔軟な対応力が求められます。
日本が“事前計画と完璧な仕上がり”を重視するなら、台湾は“現場力とスピード感”が勝負。この違いは、設計者と施工業者の関係性にも強く影響を及ぼしています。
DIY文化とプロ主導文化の違い
台湾の店舗では、オーナー自らが壁を塗ったり装飾を自作する「DIY文化」が広く浸透しています。
これは台湾の店舗づくりが「自由で、みんなの手で作るもの」という意識があるためです。家具や小物も手作り感があり、訪れる人に「ここにしかない空間」という印象を与えることができます。
一方、日本では、建築士や施工会社に全てを任せる「プロ主導」の文化が主流です。これは、法規制の厳しさや、美観・安全に対する要求が高いためでもあり、“きちんとしたもの”を“きちんと作る”ことが求められるからです。
この違いは、空間の「仕上がり」以上に、空間に込められた「愛情」や「参加意識」にも現れています。
どちらが優れているというよりも、それぞれの国が大切にしている価値観が、空間の表情に表れているのです。
接客動線とレイアウト:設計思想の違い
日本は“流れ重視”、台湾は“体験重視”
日本の店舗設計では、お客様の「動線計画」が非常に重視されます。
たとえば、入り口から商品棚、レジ、出口までが自然に誘導されるよう設計され、滞留時間やストレスが最小限になるよう細部まで計算されています。
これは、日本の接客文化が「効率と気配りの両立」を大切にしているからです。
一方、台湾では、動線が多少複雑でも、「ここに長くいてもらいたい」という考え方が先に立ちます。
つまり、空間の中で“体験”や“発見”が起きるように、意図的に動線を迷わせるようなレイアウトも少なくありません。
特にカフェや雑貨店では、歩くたびに視点が変わるよう設計されており、まるで冒険するような気持ちになる空間づくりが見られます。
流れるように買ってもらうか、歩きながら心を動かしてもらうか——この差が、設計思想の根本的な違いを表しています。
「余白」をどう捉えるかで見える世界観
日本の空間設計では「余白」は非常に大切な要素であり、意図的に何も置かない空間を作ることで「整えられた美しさ」を表現します。
これは茶室文化や和室に見られる美意識で、「空白」こそが心を落ち着かせるという哲学が根底にあります。
対して台湾の店舗では、「余白」を埋める方向で空間が作られることが多いです。
壁にはアートや植物が飾られ、棚には商品や装飾がぎっしりと並ぶ。
そこには「賑やかさ=楽しさ」という感覚があり、余白が“もったいない”と感じられる傾向さえあります。
日本では「余白が贅沢」、台湾では「余白は工夫の余地」という風に、まったく異なる空間哲学が反映されているのです。
スタッフの動線設計が明かす効率観
店舗の設計において、スタッフがどのように動くかは非常に重要なポイントです。
日本では、「いかに最短距離で効率よく動けるか」が基本で、バックヤードやキッチンの動線は徹底して機能的に作られます。
結果、業務効率が高くなり、接客にも余裕が生まれます。
台湾では、効率性よりも「場の雰囲気づくり」や「お客との距離感」を重視する傾向があり、スタッフが店内を歩きながらお客さんと会話したり、装飾に手を加えたりするような自由な動きが許されます。
つまり、業務動線というより“演出動線”という考え方に近いのです。
これは、サービスの「機械的な正確さ」よりも「人間らしさや温かさ」に価値を置く文化的背景があるといえるでしょう。
お客様の“滞在時間”に対する意識の違い
日本の飲食店では「回転率」が一つの指標となることが多く、快適さとともに適度な滞在時間を促すような空間づくりがなされています。
椅子はやや固めで、照明も少し明るめ、席間も程よい距離を保つよう設計されています。
台湾のカフェやレストランでは、逆に「できるだけ長く滞在してもらう」ことが空間設計の目的となっている場合が多く、ソファ席やクッション、間接照明を多用して、まるで自宅にいるかのような空間が作られています。
特に学生や若い世代にとっては、カフェは“第三の居場所”であり、居心地の良さがリピーターの鍵になります。
滞在時間に対する設計意識の違いは、そのまま商売のスタイルや客層の違いを映し出しています。
テーブルと椅子の配置に見る生活文化
最後に注目したいのが、テーブルと椅子の配置です。日本の店舗では、整然と並んだ配置が好まれ、椅子の角度や間隔も厳密に設計されています。
これは、周囲への配慮やパーソナルスペースを重視する文化からきており、静かに食事や会話を楽しむ前提があります。
台湾では、椅子が斜めに置かれていたり、円卓が多用されたりと、「交流」を前提とした配置が目立ちます。
家族や友人と囲むようなスタイルが好まれ、場合によっては椅子が足りなければ臨時で追加されるなど、柔軟な対応が一般的です。
配置一つにも、「人と人の距離感」に対する考え方が現れており、それぞれの生活文化が色濃く反映されていると言えるでしょう。
商業施設と路面店、それぞれの店舗戦略
テナントデザイン:管理の厳しさと自由度
日本の商業施設に出店する際、テナント設計には厳しいルールがあります。
例えば、什器の高さや照明の色温度、サインの大きさまで細かく制限されることがあり、各テナントが“施設の美観やブランドイメージ”に沿うように調和することが求められます。
このため、設計士は施設の基準に沿いながらも、どうやって自店の個性を表現するかという“攻防”を繰り広げることになります。
台湾の商業施設では、日本ほど厳格なデザインガイドラインが設けられていない場合も多く、比較的自由度の高いデザインが可能です。
テナントごとの個性が強く出るため、商業施設内がカラフルで変化に富んだ印象を持ちます。
ブランドの世界観をしっかり打ち出したい店舗にとっては、台湾のこの柔軟さは大きな武器になります。
この違いは、施設全体を「統一された空間」として設計する日本と、「多様性ある空間」として楽しむ台湾との価値観の違いを表しているのです。
路面店文化が生む個性とブランディング
台湾では、特に都市部において路面店文化が非常に盛んです。
大通りだけでなく小さな裏路地にも個性的なカフェや雑貨屋がひしめき合い、それぞれが自由なデザインで存在感を放っています。
こうした店舗では、ファサード(正面外観)に大胆なペイントを施したり、植物を大量に配置したりと、通行人の目を引く工夫が随所に見られます。
一方、日本では路面店は出店コストが高く、賃貸条件も厳しいため、比較的大手や本格的な事業者が出店することが多いです。
そのため、自由度が高い反面、デザインやブランディングにはより慎重さと完成度が求められます。
台湾の路面店が「生活の延長線」にあるのに対して、日本の路面店は「ブランドの象徴」としての意味合いが強く出ている点が、両者の特徴の違いです。
フランチャイズ展開における設計の縛り
日本のフランチャイズチェーンでは、店舗設計マニュアルが非常に細かく規定されています。
照明のルクス値から什器の寸法、壁面の色指定まで定められたルールがあり、どの地域の店舗でも“同じ体験”を保証するのが目的です。
これは、日本の消費者が「どこに行っても安心できる品質」を求める傾向が強いためです。
台湾では、同じブランドでも店舗ごとに内装が大きく異なることがあります。
マニュアルはあっても、それをどう解釈するかは設計者やオーナーの裁量に任される場合が多く、地域ごとにカラーが出やすいのです。
台湾の人々は“同じであること”よりも“面白いこと”に価値を置くため、こうした自由さが好まれるのです。
この差は、フランチャイズ展開のスピード感や多様な消費者ニーズへの対応力にも大きく影響しています。
ローカル文化との融合の仕方
台湾では、出店するエリアの文化や歴史と店舗を融合させる取り組みが積極的に行われています。
たとえば、古民家を改装したカフェでは、昔ながらのタイルや木製扉をそのまま活かしつつ、モダンな照明やアートを取り入れるといったデザインが一般的です。
ローカル感を大切にしながら、新しい要素を“自然に混ぜる”センスが光ります。
日本でも地域性を活かしたデザインは増えていますが、どちらかというと「テーマ化」されることが多く、“観光向け”の側面が強く出る傾向があります。
それが悪いわけではありませんが、台湾のような“日常に寄り添うローカル融合”とは異なるアプローチです。
この違いは、地域との関係性の築き方や、空間に込められた「物語の深さ」にも直結してきます。
インフラの違いが店舗デザインを変える
日本では、建物の構造がしっかりしており、水道・電気・空調などのインフラが設計段階から整っているため、それに合わせて美しく内装を作り込むことが可能です。また、消防法やバリアフリー法などの規制も多く、安全性が最優先されます。
台湾では、建物によって設備環境にばらつきがあり、既存の配管や配電の制限に設計を“合わせる”必要が出てくることもあります。特に古い建物では、天井が低かったり、柱や梁が予想以上に多かったりと、設計の自由度が下がることも。ただし、それを逆手にとって“味”として活かす設計が多く見られるのも台湾らしさです。
インフラの安定性と規制の厳しさが高い日本、インフラに制約があっても“工夫と寛容さ”で乗り越える台湾——この差は、設計のプロセスそのものを大きく変える要素となっています。
デザインの向こう側:その国の価値観と時代背景
安全基準と建築法規の違いから見えること
日本の店舗設計では、まず最初に「安全」が設計の軸になります。
耐震性、避難経路、消防設備、電気容量など、建築基準法や各種ガイドラインに基づいた厳格なルールが設計者に課されます。
たとえば、ガス機器を使用する飲食店では、火災報知機や排煙設備の設置義務があり、ちょっとしたデザイン変更でも確認申請が必要になることがあります。
台湾では、日本ほど細かい規制がない代わりに、現場での柔軟な対応が許される傾向があります。
これにより、スピーディにオープンできるメリットがありますが、その分、設計者の倫理観や施工者の責任感に多くを委ねる形になります。
つまり、日本では「制度に守られる安心」があり、台湾では「人と信頼で支える柔軟性」がある。
どちらが正しいというより、その国がどのようにリスクを捉え、どのようにそれを管理しようとしているのかが見えてきます。
歴史的背景が形作る「今のデザイン」
日本は長い職人文化と木造建築の歴史を持つ国で、空間づくりにおいて「細部へのこだわり」や「寸法の正確さ」が美徳とされています。
また、戦後の復興やバブル経済を経て、高度な施工技術や法制度が整備され、“完成されたデザイン”が主流になってきました。
台湾は日本統治時代の建築文化に加え、中華文化と西洋文化が融合する独特な歴史を持っています。
戦後の急速な経済発展により、個人商店や小規模店舗が次々に生まれ、“DIYと即興の文化”が自然と育まれました。
これが現代の台湾デザインに「自由で温かみのある空間」が多い理由でもあります。
空間デザインは「文化の結晶」と言えます。
その国の歴史と積み重ねが、今の設計や施工スタイルに色濃く影響しているのです。
SNSと写真映え:台湾の即応性
台湾ではInstagramやFacebookを活用した“写真映え”が店舗設計に強く影響を与えています。
内装に“撮影スポット”を最初から設けたり、照明を顔色がきれいに見える色温度に調整するなど、SNSを前提とした空間づくりが非常に進んでいます。
日本でも写真映えは重要ですが、「SNS映え=品質」とは捉えられず、あくまで“+αの価値”として扱われる傾向にあります。
空間の美しさは“実物の完成度”で評価されることが多く、SNSに頼りすぎることには慎重です。
この違いは、情報発信やマーケティングの感度の違いだけでなく、「空間をどう使ってもらいたいか」という設計の哲学の違いにもつながっています。
高齢化と若年層ターゲットの空間戦略
日本は世界でもトップクラスの高齢化社会です。
そのため、バリアフリー設計や落ち着いた配色、広めの通路設計など、安心感を重視した空間設計が求められるようになっています。
特にドラッグストアやスーパーでは、シニア層を意識した見やすさや安全性が重要です。
台湾では、若年層の人口比率は高くはないのですが、20〜30代をメインターゲットとしたような店舗設計が主流です。
カラフルでポップなデザイン、ユニークな装飾、そして写真映えする仕掛けが満載の店舗が街にあふれています。
国民構成の違いがそのまま「店舗の空気感」に反映されており、設計者としてはターゲット層を見極めた空間提案が求められます。
コロナ後の変化にどう対応しているか
コロナ禍を経て、日本の店舗では非接触対応や換気性能の強化、座席の間隔確保など、より“衛生的で安心な空間”が求められるようになりました。
抗菌素材の使用やタッチレス設備の導入も増え、空間における“清潔感”の重要性が再認識されています。
台湾も同様に感染対策は進みましたが、日本よりも“スピード感”を持って現場対応が行われることが多く、アルコール消毒やアクリルパネルをいち早く導入し、設計に反映させました。
さらに、オープンエア空間の人気が高まり、“屋内と屋外の融合”を図るような設計が増えています。
コロナをきっかけに、両国の店舗設計が大きく変化しましたが、その対応の仕方を見ることで、「社会と空間の関係性」への考え方が大きく異なることが浮き彫りになります。
まとめ:デザインの違いは「文化の違い」だった
日本と台湾の店舗デザインを比較すると、まるで別の美学がそこにあることに気づかされます。
日本は細部へのこだわりや秩序を重視し、完璧さと清潔感、そして「空間の正解」を追い求める文化。
台湾は柔らかさや人間味、自由な発想を大切にし、空間に“温度”を感じさせる文化。
素材の使い方や色の選び方、図面の描き方から動線の設計、法規制へのアプローチまで、違いは多岐にわたりますが、根本にはその国が持つ価値観、歴史、そして人々の暮らしがあります。
この連載の初回では、デザインの見た目の違いだけでなく、「なぜそうなるのか?」という深い部分にまで踏み込みました。空間は、文化の写し鏡。だからこそ、設計者として、事業主として、ただ“真似る”のではなく、“背景を理解して応用する”視点が必要です。
来週からは、この違いの“理由”をさらに深く掘り下げていきます。次回は「台湾の店舗空間はなぜ“抜け感”重視?設計思想を解説」です。お楽しみに!