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台湾の内装工事に「監督」はいない?日本企業が陥りやすい現場の落とし穴

あなたの店舗、台湾でも「日本と同じ品質」で仕上がると思っていませんか?

実は、台湾の内装工事現場には「現場監督」が存在しないという、驚きの文化があります。

日本では当たり前のように設計者と職人の間を取り持ち、工程と品質をコントロールしてくれる“現場監督”という存在。

ところが、台湾ではこのポジションがシステムとして存在せず、それぞれの職人チームが独自の判断で現場を進めているのが現実です。

その結果、日本企業が台湾に出店した際に

「図面と違う」
「誰が責任者かわからない」
「工期が読めない」

といったトラブルに直面するケースが少なくありません。

本記事では、台湾の現場がなぜこのような体制になっているのか、そしてそれにどう向き合えばよいのかを、現地のリアルな視点から解説します。

日本式の常識をそのまま当てはめず、台湾で成功するための「監督の新しいカタチ」を探っていきます。

日本の「現場監督」とは?台湾との違いをまず理解しよう

「現場監督」は日本独自のポジション?

日本の内装工事や建築現場では、「現場監督(げんばかんとく)」という役職が極めて重要なポジションとして確立されています。

工程管理、安全管理、品質管理、コスト管理――これらすべてを総合的に担うのが現場監督です。

施工会社側に属しながらも、時には施主や設計者の意向を代弁し、時には職人たちと膝を突き合わせて段取りを調整する。

まさに現場全体をマネジメントする「司令塔」のような存在です。

一方で、台湾には日本の「現場監督」に完全に一致する職種は存在していません。

もちろん、現場をまとめる役割を担う人間はいますが、それは必ずしも工事会社の正社員ではなく、協力会社(下請け)側の責任者や、いわゆる「包工頭(バオゴントウ)」と呼ばれる職人上がりの親方的な人物が担っているケースが大半です。

この構造の違いが、日台間での内装工事における「認識のズレ」を生んでいる最大の要因のひとつです。

台湾では誰が現場をまとめているのか?

台湾の現場では、各工種ごとに「包工頭」が存在し、それぞれの領域で指示を出したり、人員を手配したりします。

たとえば、大工仕事には大工の包工頭、電気工事には電気の包工頭がいるといった具合です。

しかし、これらの包工頭たちを横断的に管理・調整する「中央管理者」は不在のまま進むケースが多いのが実情です。

つまり、スケジュールがかち合ったり、仕上がり品質にばらつきが出ても、それを一元的にマネジメントする立場の人がいないことになります。

もちろん、元請け業者の担当者が現場に顔を出すこともありますが、彼らは営業や契約管理が主業務であり、日本のような詳細な現場管理までは行いません。

したがって、工程の全体像や設計意図を把握している人が現場に常駐していないことが多く、「監督がいない」という印象を持たれることになります。

現場監督不在によるトラブル事例とは?

このような構造の違いによって、実際の現場でどのようなトラブルが起こるのでしょうか。

以下に実際によくあるケースを紹介します。

  • 設備配管が内装仕上げと干渉していた
    現場に図面全体を理解している人がいないため、電気や空調の施工が進んだ後で、「その位置では什器が置けない」と判明し、やり直しが発生。
  • 工程が重なり現場が混乱
    大工と塗装、電気工事が同時に進行。包工頭同士が連携を取っていなかったため、作業が干渉し合い、進捗が遅延。
  • 仕上げ精度のバラつき
    誰も現場全体の品質チェックをしていないため、ある部分はきれいに仕上がっているのに、別の部分は粗いというムラが発生。引き渡し直前にクレームになる。

これらは決して珍しいケースではなく、台湾の現場で日本企業がしばしば直面する「典型的な困りごと」です。

もちろん、すべての現場でこうしたトラブルが起きるわけではありませんが、現場監督の不在が招くリスクは、常に頭に入れておく必要があります。

なぜ台湾では現場監督が機能していないのか?

この背景には、台湾の建設業界が持つ独自の歴史と文化が関係しています。

台湾では、長年にわたって「分離発注」的な体制が主流で、各工種ごとに職人グループ(班)を個別に手配するスタイルが一般的でした。

そのため、「すべての工程を一貫して監督する役職」は必要とされず、むしろ「各包工頭に任せる文化」が根づいています。

コスト構造上も、常駐で現場を管理する人材を雇う余裕がない場合が多く、実質的に現場任せになっているのが現実です。

また、台湾では「工程よりも人間関係」が重視される傾向があり、職人同士の調整は現場での“現場的な会話”で行われがちです。

こうした文化は、日本のような「図面と工程表に基づいた管理文化」とは根本的に異なるため、日系企業にとっては大きなギャップとなるのです。

現地で日本式の「監督」を機能させるには?

それでは、台湾の現場で日本のような監督機能を持たせるには、どのような工夫が必要でしょうか。

まず重要なのは、「現場監督を日本から派遣する」という発想です。

特に複数店舗を台湾で展開する予定がある場合、自社で信頼できる監督を台湾に配置することで、品質や工程の安定が格段に向上します。

現地の施工会社と設計者の間に立ち、日本式の基準を持ち込むことができるからです。

ただし、これはコストが高く、言語や法律の問題も伴います。

そのため、次善の策として、「プロジェクトマネージャー(PM)」や「翻訳を兼ねた現場調整役」を台湾側に立てる方法も有効です。

現場に対してきちんとした指示を出せる人材がいれば、包工頭たちも動きやすくなります。

また、可能であれば台湾側の施工会社に「日本式の現場管理体制」を依頼し、定例会議や工程表の共有、日報の提出などを取り入れてもらうよう働きかけるのも効果的です。


台湾の現場で“監督不在”が生む影響とは?

工程の進行管理が曖昧になる?

台湾の現場で最もよく起こる問題の一つが、「誰が全体の進行を見ているのか分からない」という事態です。

日本であれば、現場監督が詳細な工程表をもとに、各工種の開始・終了タイミングを細かく管理しています。

ところが台湾では、この「工程の交通整理」を担う人がいないことが珍しくありません。

たとえば、ある現場で大工工事の途中に電気工事が先に入り込み、天井裏の作業が終わらないままクロス貼りが始まってしまう、というようなことが現実に起こります。

現場に誰かしらはいるのですが、工程表があっても現場で共有されておらず、各職人が自分のタイミングで現場に入り、作業が“ぶつかる”のです。

これは包工頭同士の連携が不足しているからというより、そもそも「調整しようとする文化」が薄いからです。

つまり、台湾では工程は「段取り」より「その場の判断」で進んでいく傾向があり、それを支える「監督」のような存在がいないため、日々の作業の整合性が取りづらくなってしまいます。

職人同士の情報伝達にズレが生まれる

現場でのコミュニケーションも、監督不在によって大きく影響を受けます。

日本では現場監督が設計者と連携を取り、指示内容や変更点を職人に正確に伝えることが一般的です。

しかし台湾では、職人同士が口頭で直接やり取りすることが多く、その過程で重要な情報が抜け落ちることがあります。

たとえば、設計者が「壁面を左側10cmオフセットして配置してください」と伝えていても、それが包工頭を介して「だいたい10cmずらして」と伝わってしまう。

さらに、その内容が電気工事の担当には伝わっておらず、コンセント位置がずれて設置される。

こういったミスが多発します。

これは通訳やPMがいたとしても、「現場全体の構造を把握している人」がいない限り、細かい調整が利かず、手戻りや再施工の原因になります。

設計図はあるのに現場で実行されない、というズレが生まれるのです。

工期遅延の原因はどこにある?

台湾の工事現場で「工期遅延」は決して珍しくありませんが、その原因を深掘りすると、やはり“現場監督の不在”が大きく関係しています。

例えば、ある職人が予定通りに来ず工事が止まったとしても、誰もその穴を埋める調整をしない。

しかも、「次の工種を後ろ倒しにする」という判断が現場内で共有されないため、次に来た業者が「まだ終わってないの?」と帰ってしまう、という悪循環が起きます。

また、変更指示が出たときに「誰がその変更を他の工種に伝えるのか」が明確でないため、改修のたびにスケジュールがズレ、結果的に1週間、2週間と遅れていくことも珍しくありません。

工程を横断的に管理する「舵取り役」がいない以上、工期の確実な管理は極めて難しいのが現実です。

品質チェックのタイミングがバラバラ

品質のばらつきもまた、監督不在がもたらす典型的な問題です。

日本では、「次の工程に進む前に監督がチェックする」「設計者が仕上げを確認してから引き渡しに入る」といった明確なステップがありますが、台湾ではこのような「品質チェックの関所」が設定されていない現場も多く見られます。

そのため、クロスが曲がって貼られていたり、什器の納まりが合っていなかったりしても、気づかないまま工事が進行してしまうことがあります。

施主側が気づいて指摘しても、「もう次の工程が進んでいるので直せない」と言われる――これは日台の施工現場でよくあるフラストレーションです。

この背景には、「細かくチェックする」という文化が現場に根づいていないことが大きく関係しています。

日本では「後戻りさせないために先回りして確認する」という意識が強いですが、台湾では「起きたら対応する」スタンスが一般的です。

問題発覚後の責任の所在が不明瞭

さらに深刻なのが、「トラブルが起きたときに誰が責任を取るのか」が分からないという問題です。

日本では、現場監督がすべての記録を残しており、「どの指示で、誰が、いつ施工したか」が明確になっているため、責任の所在が追いやすい構造になっています。

しかし台湾では、記録が曖昧だったり、職人の入れ替わりが激しかったりして、問題の原因特定が非常に困難になります。

「自分は指示された通りにやった」「それは前の業者のミスだ」といった言い訳が横行し、結果として誰も責任を取らない、という状況に陥ることも。

このような事態を避けるためには、やはり「全体を管理する第三者」が必要不可欠です。

少なくとも、施主側が記録を取り、都度確認しながら進めることで、後々のトラブルを未然に防ぐことが可能になります。


台湾現場のリーダー格、「包工頭」とは何者か?

包工頭の役割と立ち位置を知る

台湾の内装工事現場において、「包工頭(バオゴントウ)」は欠かせない存在です。

日本でいう「職長」や「親方」に近いポジションですが、その立場と責任の範囲は日本とは大きく異なります。

まず、包工頭は個別の工種ごとに存在します。

たとえば、木工、塗装、電気、配管など、それぞれの工事に専門の包工頭がいて、自分の職人チームを率いて現場に入ってきます。

つまり、「工事全体を見る現場監督」ではなく、「自分の専門工種の範囲だけを請け負う小規模な請負元」という位置付けです。

さらに特徴的なのは、包工頭は多くの場合、正式な法人や会社に属しておらず、「個人事業主」や「現場ごとのチーム」である点です。

つまり、労働契約もゆるく、契約書がなかったり、金額も口約束だったりするケースも珍しくありません。

彼らは腕が良ければ多くの現場に呼ばれ、信頼されれば引き合いも多くなりますが、逆に信頼を失えばあっという間に呼ばれなくなる世界で生きています。

このように、包工頭は“現場の職人代表”でありながらも、“経営者”の顔も持つ複雑な立場にあるのです。

工種ごとの責任分担の実情

台湾の工事現場では、現場管理を中央集権的に行う日本とは違い、工種ごとに独立した動きが基本です。

よって、工事全体の調整という視点はほとんどなく、各包工頭は「自分の工程を予定通り終わらせる」ことに集中しています。

例えば、大工工事の包工頭が施工を終えて次の工種に引き継いだとしても、その仕上がりが多少粗くても「次の業者がどうにかするだろう」という発想になりがちです。

つまり、次の工種に配慮するという文化があまりありません。

また、工種間のコミュニケーションも希薄で、全体スケジュールがしっかり共有されていないこともしばしば。現場では、「〇月〇日に終わらせるように」と指示しても、「その日は別の現場に入ってるから無理」といった返事が返ってくることも。

包工頭は複数現場を掛け持ちしているケースが多く、現場の責任というより“自分の都合”を優先する傾向が強くなります。

包工頭と日本人施主のコミュニケーションの壁

日本から台湾に進出した企業の多くが悩むのが、包工頭との意思疎通の難しさです。

まず、言語の壁。

包工頭の多くは台湾語(閩南語)を話しますが、日本人は当然理解できません。

また、現場で使用される中国語も、建築専門用語が多く、通訳を介しても微妙なニュアンスが伝わらないことが多々あります。

さらに、文化的な違いも大きな壁になります。

たとえば、日本では「指示書を出して、その通りに施工する」という考え方が一般的ですが、台湾では「現場の状況に応じて柔軟に対応する」ことが美徳とされる傾向があります。

そのため、日本人側が「なぜ図面と違うのか?」と指摘すると、包工頭側は「現場判断で良くしたんだ」と自信満々に返してくるケースも珍しくありません。

このように、「図面通り」が常識の日本と、「現場判断」が基本の台湾では、価値観が大きく異なるため、意思のすれ違いが頻発します。

包工頭に依存しすぎるリスクとは?

包工頭は経験豊富で、腕のいい職人も多く存在します。

とくに、過去に日本企業の現場を経験している包工頭は、日本式の仕上げや管理にも理解があり、一定の安心感があります。

しかし、包工頭に依存しすぎると、次のようなリスクが潜んでいます。

  • 突然来なくなる
    別の現場が優先された場合、連絡もなく現場に来ないことがあります。特に工期終盤でこれが起きると、致命的な遅延につながります。
  • 職人の質がバラバラ
    包工頭が連れてくる職人は固定ではなく、その時々で変わることが多いため、職人の腕前にバラつきがあります。結果として仕上がりにムラが出る場合があります。
  • 責任の所在が曖昧
    工事ミスや手戻りが発生した場合、「それは職人がやった」「私は見てなかった」と責任を回避されることがあります。書面での責任範囲を明確にしておかないと、泣き寝入りすることにもなりかねません。

つまり、包工頭の能力や信頼性によって現場の成否が大きく左右されるにもかかわらず、その関係性は非常に不安定で、構造的なリスクを抱えているのです。

包工頭との信頼関係を築くポイント

では、台湾現場で包工頭と良好な関係を築き、安定した工事を実現するにはどうすればよいのでしょうか?

以下にいくつかのポイントを紹介します。

  1. 最初の現場で「信頼貯金」を作る
    最初のプロジェクトで誠実な対応をし、無理な値引きや急な変更を避けることで、包工頭の信頼を得ることができます。信頼を得ると、優先的に人員を確保してくれたり、現場への対応も丁寧になります。
  2. 「逐次払い」よりも「工程ごとの進捗払い」
    支払い条件は信頼関係を築く上で非常に重要です。「仕事が終わるまで支払いをしない」よりも、「工程が完了した時点で部分支払いする」ことで、包工頭側のモチベーションが上がり、工期遅延のリスクも減ります。
  3. 図面と意図の「口頭説明」を必ず行う
    紙だけでなく、図面の意図を口頭で説明し、納得してもらうことが大切です。可能であれば、通訳を通じて実際の現場で一緒に確認するのがベストです。
  4. 日報や写真記録の習慣をつける
    包工頭と話し合いのうえ、毎日の進捗や問題点を写真と簡単な文章で記録することをお願いしましょう。これにより、問題の早期発見と責任範囲の明確化につながります。
  5. 現場に信頼できる“通訳兼PM”を立てる
    最終的には、包工頭の言葉と施主の意図を「翻訳」できる現地スタッフが鍵となります。施工知識と中国語、両方を理解したスタッフの存在は、プロジェクトの成功に直結します。

日本から出店する企業が取るべき対策とは?

台湾での内装工事において、「現場監督がいない」「包工頭が仕切っている」「責任の所在が曖昧」という課題がある中で、日本企業が求める品質や工程、コスト管理をどのように担保していくか――

この章では、現実的かつ効果的な5つの対策を紹介します。

日本式の「現場管理者」を立てるべき?

まず最もシンプルで確実な方法は、自社または日系パートナーから「現場管理者」を台湾に派遣することです。

現場監督が不在な台湾の施工環境において、日本式の監理体制を持ち込むことで、図面・工程・品質を総合的にマネジメントできるようになります。

この「現場管理者」は、単なる見張り役ではなく、設計者と現場の間に立って調整を図る“プロジェクトマネージャー(PM)”としての機能も求められます。

とくに多店舗展開を考えている企業にとっては、同じ品質を再現するためにも常駐または長期的に台湾に滞在する人材の存在が鍵となります。

ただし、この方法にはコストがかかるという課題もあります。

台湾に駐在員を配置するには、住居費、交通費、人件費などのコストが嵩みます。

したがって、案件の規模や期間に応じて、現地に詳しい信頼できるローカルPMとの提携を検討するのも一つの現実的な選択肢となります。

設計者・施工者との定例会議の有効性

監理者を置くことが難しい場合、最低限実行してほしいのが「定例会議(週1回)」の開催です。これは、設計者・施工者・施主(またはその代理)が現場で進捗や問題点を共有する重要な機会です。

台湾では、定例会議の文化がまだ一般的とは言えませんが、日本企業が主導して「毎週月曜の朝に30分だけでも現場で打ち合わせを行いたい」と伝えれば、対応してくれる業者も増えてきています。

会議では以下のような事項を扱うと効果的です:

会議内容説明
工程の確認予定通り進んでいるか、次の工種の準備はできているか
図面・仕様の再確認認識にズレがないか、最新の設計意図が共有されているか
問題点・課題の共有現場で発生した問題、指示待ちの項目などの洗い出し
支払い・契約事項の確認進捗に応じた支払い確認や追加工事の有無など

このような会議を繰り返すことで、問題の早期発見や、現場の当事者意識を高める効果が期待できます。

議事録を写真付きで残しておくと、責任の所在を明確にでき、後々のトラブル防止にもなります。

チャットアプリを活用した日常的な情報共有

台湾ではLINEやWhatsApp、WeChatなどのチャットアプリを使った現場連絡が非常に一般的です。

メール文化があまり浸透していないため、リアルタイムな意思疎通にはチャットグループの活用が効果的です。

プロジェクトごとにグループを作り、以下のような用途で活用するとよいでしょう:

  • 日々の進捗写真の共有(包工頭や職人から)
  • 設計変更や修正指示の即時通知
  • 緊急トラブルへの迅速対応
  • 図面やスケッチ、参考画像の送信

重要なのは、言葉の壁を補うために翻訳ツールを活用すること。

最近ではLINEにも翻訳機能があり、日本語で書いた内容が簡単に中国語に翻訳されるため、現場との意思疎通が格段にスムーズになります。

ただし、口頭での感覚的な伝達だけでなく、「必ずテキストで残す」「証拠としてスクリーンショットを保存する」ことも大切です。

後から「聞いていない」と言われないよう、記録を残す文化を根付かせましょう。

品質・工程を見える化する「現場日報」のすすめ

日本の現場では日常的に行われている「現場日報」ですが、台湾ではまだまだ一般的ではありません。

そこで、簡単な日報フォーマットを作り、包工頭に提出してもらう仕組みを取り入れると、現場管理の質が大きく向上します。

たとえば以下のようなシンプルなフォーマットでも十分です:

日付作業内容担当工種問題点・変更点写真添付
8/7クロス貼り作業完了内装仕上げ一部欠損箇所あり写真2枚

これをチャットグループに毎日投稿してもらうよう依頼すれば、遠隔でも現場の進行状況やトラブルを把握しやすくなります。

また、「誰が・いつ・何をしたか」が可視化されることで、責任の所在も明確になります。

さらに、この日報は、後日別店舗を出店する際のノウハウ蓄積にもつながります。

現場に信頼される通訳・PMの重要性

台湾で成功するプロジェクトの共通点の一つが、「現場に信頼される通訳兼プロジェクトマネージャー(PM)がいる」ということです。

この人物がいるかいないかで、プロジェクトの成否が左右されると言っても過言ではありません。

理想的な通訳・PMは、以下の条件を備えています:

  • 建築・内装に関する基本的な知識がある
  • 日本語・中国語・台湾語の3つが堪能
  • 設計者と職人の橋渡しができる
  • トラブル時に冷静に調整できる
  • 日本人施主の要望を的確に“現場の言葉”に翻訳できる

このような人材はなかなか希少ですが、最近では日系と台湾ローカルのハイブリッド会社や、建築業界出身の多言語対応PMも増えてきています。

雇用やパートナー契約の際には、必ず過去のプロジェクト経験や顧客評価を確認しましょう。


台湾の工事現場に適した「監督」の新しいカタチ

台湾の工事現場では、日本のような「常駐型・多機能型の現場監督」が存在しないケースが一般的です。

これまで述べてきたように、それには台湾の歴史的な施工文化や、分離発注が主流の工事体制、職人中心の現場運営といった背景があります。

では、日本式の現場監督をそのまま台湾に持ち込めばうまくいくのか?

答えは、必ずしもイエスではありません。

この章では、日本企業が台湾で現地の文化や体制を尊重しながら、どうすれば“監督機能”を現場に根付かせられるのか、その「新しいカタチ」について考察します。


日本式をそのまま持ち込まない柔軟性

日本の内装工事は、高精度・高品質・高安全意識を強みとする一方で、非常に細かい工程管理や、現場常駐での統制が前提になっています。

こうした日本式の現場監督スタイルは、台湾の職人文化とは大きく異なり、「違和感」や「反発」を生みやすいのが現実です。

たとえば、日本から派遣された現場監督が「なぜ図面通りにやらないんですか?」と問い詰めたとき、台湾の職人たちは「自分たちは現場判断で最善を尽くしているのに、なぜ信用されないのか」と感じます。

結果として、現場の空気が悪くなり、協力体制が崩れてしまうこともあります。

そこで必要なのは、日本式の厳密な管理をそのまま押し付けるのではなく、「台湾に合った監督スタイル」へと変換する柔軟性です。

言い換えれば、日本の監督が「コントローラー」ではなく、「ファシリテーター(調整役)」や「通訳者」として機能することが求められるのです。


「信頼ベース」の現場管理が鍵

台湾で施工を成功させている日系企業に共通しているのは、現場の職人や包工頭と “信頼関係”を築くことに長けている という点です。

これは「管理より関係性が大事」という台湾文化を踏まえた現場運営のあり方であり、日本のように「上から管理する」のではなく、「横並びで協力し合う」関係性づくりが重要となります。

たとえば、日本の監督が現場に来たときに、包工頭に「昨日の作業、すごく丁寧でしたね。あの部分、特に良かったです」と褒めるだけで、現場の空気が一気に良くなります。

さらに、「次の工程がスムーズにいくように、ここの納まりだけ少しだけ気にしてもらえると助かります」と一緒に考える姿勢を見せれば、相手も「この人はただ文句を言う人ではない」と感じ、協力体制が強まります。

つまり、日本式の「指示する監督」から、台湾における「信頼でつなぐ調整役」へと役割をシフトさせることが、現地で受け入れられる監督の新しいカタチなのです。


日台ハイブリッド型現場運営の実例紹介

ここで、実際に「日本品質を台湾で再現することに成功した」プロジェクトの実例をご紹介します。

ある日本の飲食チェーンが台北に出店した際、当初は日本人現場監督を派遣して現地管理を行っていました。

しかし、工程の遅れや現場トラブルが絶えず、日本人監督と台湾の包工頭の間に摩擦が生じてしまいました。

その後、戦略を大きく見直し、以下のような「日台ハイブリッド型チーム」に移行したところ、劇的に状況が改善しました:

役割担当者役割の内容
設計・品質管理日本人デザイナー(非常駐)設計意図と仕上がり品質のチェック、週1〜2回現場確認
現場調整台湾人PM(バイリンガル)工程調整、職人との意思疎通、LINEグループで日報管理
包工頭(各工種)台湾ローカル実施工、工程遂行、簡易的な進捗報告
通訳・文化仲介台湾人スタッフ(日本語対応)言語だけでなく価値観や進行スタイルの“翻訳”役

このように、日本人がすべてをコントロールするのではなく、「キーマンに信頼して任せる体制」に切り替えることで、現場全体の空気が柔らかくなり、結果的に施工品質も上がったのです。


台湾スタッフの強みを活かすチームづくり

台湾の職人やスタッフは、自主性や柔軟性に富んでおり、「自分が頼りにされている」と感じたときに最も力を発揮します

したがって、監督的な役割を担う人物が「指示命令」ではなく「相談型」でチームを巻き込むことが大切です。

たとえば、「この納まり、図面通りでは厳しそうだけど、どう思いますか?」と尋ねてみると、包工頭から「こっちの方が施工しやすくて見栄えもいいですよ」と実用的な提案が返ってきます。

ここで「なるほど、それでいきましょう」と即断できれば、現場に信頼される“監督”としてのポジションを自然に得ることができます。

つまり、台湾の人たちが持つ“自律性”を引き出す監督像こそ、現場にフィットするスタイルなのです。


日台協業で築く“新しい現場文化”

これからの台湾出店・施工プロジェクトにおいて重要なのは、「日本式 vs 台湾式」という二項対立ではなく、両者の“いいとこ取り”をした新しい現場文化を作っていく姿勢です。

日本側が求める「品質・納期・整合性」に対し、台湾側の「柔軟性・即応性・人間関係重視」をどう融合させるか。

その鍵となるのは、「現場監督=管理者」ではなく、「調整者・信頼の橋渡し役」という新しい定義です。

台湾の現場で監督的な機能を果たすのは、必ずしも“監督”という肩書きの人物ではありません。

設計者、PM、通訳、場合によっては施主自身が、“監督の一部機能”を分担するチーム体制こそが、これからの台湾内装工事における理想の形と言えるでしょう。


【まとめ】台湾の工事現場に“監督”がいないって本当?その背景と向き合い方

この記事では、日本から台湾へ出店する企業の皆様にとって非常に重要なテーマである、「台湾の工事現場における“監督不在”の実情」について、全5章にわたって詳しく解説してきました。

日本と台湾では、内装工事の進め方や現場のマネジメント体制に、文化的・歴史的に大きな違いがあります。

日本では当たり前のように存在する“現場監督”という役職が、台湾には基本的に存在せず、各工種のリーダーである“包工頭”によって工事が進行していくという構造は、多くの日本企業にとって驚きであり、同時に大きなギャップでもあります。

このギャップが、品質のばらつきや工程のズレ、責任の不明確さといった問題を引き起こす原因となっており、日本式のマネジメント手法をそのまま持ち込むだけでは、なかなかうまく機能しないというのが現実です。

しかし、台湾の現場には台湾なりの合理性や強みが存在しており、それらを正しく理解し、尊重しながら、「日本的な品質管理」×「台湾的な柔軟性」というハイブリッドな現場運営を目指すことが、成功への近道です。

具体的には以下のようなアクションが効果的です:

  • 日本式の監督を派遣するのではなく、信頼できる現地PMや通訳とチームを組む
  • 定例会議やチャットアプリを通じて、日常的な情報共有体制を築く
  • 包工頭との信頼関係を重視し、任せる部分とコントロールすべき部分を明確にする
  • 現場での記録や進捗報告を仕組み化し、品質と責任の可視化を進める
  • 日本人の“監督像”を柔軟に再定義し、台湾に合ったスタイルへとアップデートする

今後、台湾出店を本格的に検討されている企業の皆様にとって、こうした考え方がひとつの指針となり、より円滑な現場運営、そして高品質な店舗づくりにつながっていくことを願ってやみません。


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