台湾で店舗内装工事を行うと、日本の現場とはまるで違う「空気感」に驚く方は少なくありません。
日本では日単位、時には時間単位で組まれる緻密な工程表に基づき、全員が計画通りに進めるのが当たり前。
一方、台湾では現場の状況を見ながら柔軟に順序を入れ替え、即決で進めるのが日常です。
このスピード感は魅力的ですが、日本式の品質管理や納期遵守の考え方とは衝突することもしばしば。
では、どうすれば両国の強みを活かしながらスムーズに工事を進められるのでしょうか?
本記事では、日本と台湾の工程管理の違いを現場目線で比較し、その違いを乗り越える「ハイブリッド型工程管理術」を詳しく解説します。
これを読めば、台湾での店舗づくりが一段と安心して進められるはずです。
計画通り進めたい日本、状況を見て動く台湾
日本の店舗内装工事の現場では、「工程表」という言葉が非常に重視されます。
工程表とは、工事の進行スケジュールを日単位、時には時間単位で細かく区切り、「この日までに床下地完成」「この日から壁の下地組み開始」「この日までに塗装完了」という具合に全ての工程を管理するための表です。
日本の現場監督は、工程表に沿って各業者に指示を出し、納期に間に合うように段取りを組みます。
つまり、日本の現場は“計画通りに進める”ことを最優先とし、そこに全員が従う文化があります。
一方で、台湾の現場は少し違います。
もちろん工程表は存在しますが、日本ほど詳細ではなく、大まかな「今月は壁工事、来月は仕上げ」というレベルで記載されることも多いです。
日ごとのスケジュールが事前にガチガチに決まっているというより、その日の現場の状況や材料の到着状況、職人の手配状況を見て柔軟に動くのが一般的です。
つまり、台湾では「計画はあるけれど、現場の状況次第で変えるのが普通」という考え方が根付いています。
日本式のメリットと台湾式のメリット
日本式の工程管理は、とにかく納期に対して強いです。
事前にすべての段取りを詰め、材料や職人の手配も前倒しで行うため、「予定通りに終わる確率」が非常に高いです。
また、全員が同じ工程表を見て動くため、無駄な待ち時間が発生しにくく、品質の安定にもつながります。
一方、台湾式の柔軟対応には別の強みがあります。
例えば、現場で予期しない問題が発生した場合、日本式では工程を一部止めて調整を行いますが、台湾では「じゃあ別の作業から先にやろう」とその場で順序を変えることが多いです。
材料の納入が遅れた場合でも、「届いたらその時にやればいい」という柔軟さで工事を進めます。
このため、突発的な変更に対しての対応スピードは非常に早く、現場の混乱を長引かせません。
両者の衝突が生まれる瞬間
日系企業が台湾で出店工事を行う際、最もストレスを感じやすいのがこの工程感覚の違いです。
例えば、日本の担当者が「この壁は明後日までに完成しますよね?」と確認すると、台湾側は「そうだけど、もし床材が先に届いたら床からやるかも」と平然と言います。
日本側からすると「そんな急な順序変更は困る」となりますが、台湾側からすると「効率よく進めるための普通の判断」です。
また、日本の現場では変更が発生すると必ず打ち合わせを行い、関係者全員で合意してから進めます。
しかし、台湾では現場監督や職人の判断で即座に変更するケースもあります。
これが日本側から見ると「勝手にやられた」という印象になり、信頼関係にヒビが入ることがあります。
日本式を台湾に持ち込むときの落とし穴
日本の精密な工程管理をそのまま台湾に適用しようとすると、現場がかえってストレスを抱えることがあります。
理由は、台湾では職人や資材業者の稼働スケジュールが日本ほど厳密ではないため、計画通りに職人が集まらなかったり、材料が遅れたりすることが日常的にあるからです。
日本の担当者が「工程表通りにお願いします」と強く言いすぎると、現場が萎縮し、必要な柔軟対応すらできなくなってしまうリスクがあります。
台湾流を取り入れて成功した事例
ある日系飲食チェーンは、台湾で初めての店舗出店の際、日本式の工程表を持ち込みましたが、初週から遅れが発生しました。
原因は、床材の輸入が予定より1週間遅れたこと。
通常なら全体工程が大幅に遅れるところですが、この時、台湾の現場チームが「では壁と天井を先にやろう」と提案。
日本側は最初こそ戸惑いましたが、結果的に全体の納期はほぼ予定通りに完了しました。
この経験を踏まえて、その企業は次のプロジェクトから「日本式の詳細工程表」と「台湾式の柔軟対応ルール」を併用することにしました。
具体的には、主要な節目(例:引き渡し日や検査日)は厳守しつつ、それまでの細かい工程は現場判断で入れ替え可能とする方法です。
この方式により、日本側の安心感と台湾側の柔軟性が両立し、以降のプロジェクト成功率が大幅に上がったのです。
結論として、日本と台湾の工程感覚は「どちらが正しい」ではなく「どちらをどう使い分けるか」が重要です。
日本式の精密さは品質を守り、台湾式の柔軟さは突発的な問題に対応する力を高めます。
台湾で成功するためには、日本の計画性を押し付けるのではなく、現場の臨機応変な動きを尊重しつつ、節目だけは守る仕組みを作ることが鍵になります。
工程表の作り方からして違う!日台比較
日本と台湾の店舗内装工事の現場では、「工程表」という言葉こそ共通ですが、その作り方と使い方には大きな違いがあります。
日本で長年現場監督をしてきた方が初めて台湾の現場に入ると、この違いに強いカルチャーショックを受けることが多いです。
私自身も最初は「これで本当に間に合うのか?」と何度もハラハラしました。
日本式の「日別詳細スケジュール」とは
日本の工程表は、基本的に「日単位」で細かく区切られています。
たとえば、工事が1カ月ある場合でも「1日目:解体工事開始」「2日目:解体工事完了・廃材搬出」「3日目:床下地組み開始」といった具合に、日々の作業内容が正確に記載されます。
さらに工事内容によっては、午前と午後で工程を分けることも珍しくありません。
この精密な工程表は、主に以下の理由から生まれています。
- 多くの業者が関わるため、作業の順序と時間配分を厳密にしないと混乱する
- 遅延が発生した場合に、原因を特定して即座に修正できる
- 発注者に進捗を説明しやすく、納期を守る安心感がある
特に店舗内装では、オープン日が広告や求人計画と直結しているため、1日の遅れが数百万円単位の損失になるケースもあります。
そのため、日本の現場監督は「計画を守るための工程表」を徹底して作ります。
台湾式の「大まかな工程表」の特徴
一方、台湾の工程表は、ざっくりとした「段階スケジュール」が主流です。
たとえば、同じ1カ月の工事であっても、「第1週:解体・下地」「第2週:設備・電気工事」「第3週:仕上げ」「第4週:調整・清掃」といった形です。
ここには日別の指定はなく、その週に何をするかが大まかに書かれているだけです。
台湾ではこのような工程表が一般的である理由は以下の通りです。
- 職人の稼働が固定ではなく、その時々の手配状況で変わる
- 資材の入荷が天候や輸送事情で変動しやすい
- 現場での変更が日常的にあるため、日単位の計画は現実的でない
つまり、台湾式は「予定はあるけれど、柔軟に動くための目安」として工程表を使っているのです。
工程表に対する意識の差
日本では工程表は「絶対的な約束」です。
職人や協力業者は、工程表で指示された日に必ず作業できるよう、自分のスケジュールを確保します。
遅れが出ればすぐに会議や調整が入り、責任の所在も明確にされます。
一方、台湾では工程表は「進行の参考資料」という位置づけです。
作業日がずれること自体は珍しくなく、職人も「今週中にやればいい」という感覚で動くことがあります。
また、変更や遅延があってもそれを「ミス」とは捉えず、「仕方ない、じゃあ別の作業を先にやろう」と即座に順序を入れ替えます。
この意識の差が、日台の共同プロジェクトではトラブルの火種になることがあります。
日本の担当者が「計画が守られていない!」と感じても、台湾の現場は「順調に進んでいる」と思っている、というギャップです。
スケジュール遅延が起きたときの対応方法の違い
日本の場合、遅延が発生するとまず原因を明確にし、関係者を集めて解決策を検討します。
その場で新しい工程表を作成し直し、全員に共有します。
このため、修正に時間はかかりますが、その後のブレは最小限に抑えられます。
台湾では遅延が発生すると、その場の責任者が即座に別作業へ切り替えます。
職人への指示は口頭で行われることが多く、書面に残さない場合もあります。
そのため、日本からすると「誰が何を決めたのか」が分かりづらく、進捗管理が難しいという課題があります。
日台ハイブリッド工程表の作り方
台湾で日本式の精密な管理を実現するには、「両国の良いところを合わせる」ことが鍵です。
私が現場で採用している方法は以下の通りです。
- 主要な節目(検査日・引き渡し日)は厳守する
- 節目の間は週単位の大枠スケジュールを設定
- 週の中での日別作業は現場の判断で入れ替え可能にする
- 変更があった場合は必ず写真と短いメッセージで日本側に報告
- 工程表は日本語と中国語の2言語で作成する
この方法だと、日本側は「大枠の安心感」を持ちながら、台湾側は「柔軟に動ける自由度」を確保できます。
特に、週ごとの進捗を写真付きで共有することで、日本の担当者も現場の状況を直感的に理解できるようになります。
結論として、日本の工程表は精密さで強く、台湾の工程表は柔軟性で強い。
この2つの長所を組み合わせることで、日台協業の現場は格段にスムーズになります。
逆に、どちらか一方だけを押し付けると、摩擦が生まれやすく、信頼関係も揺らぎます。
台湾で成功するためには、「工程表は作業の指示書であり、同時に信頼のツール」という認識を双方で共有することが大切です。
現場管理者の役割の違いを知る
日台の内装工事でしばしば大きな誤解を生むのが、「現場管理者」の役割です。
日本では「現場監督」という言葉が非常に重く、工程管理から品質管理、安全管理、そして発注者との調整まで、あらゆる責任を背負う存在です。
ところが、台湾では「監督」という役職自体が常駐しない場合も多く、日本側が思い描く「現場の指揮官」が存在しないケースがあります。
この差を理解せずに台湾で工事を始めると、「誰が現場を仕切っているのかわからない」「指示が通らない」という事態に直面します。
日本の現場監督が担う多岐な業務
日本の現場監督は、店舗づくりの“司令塔”です。
具体的な業務は多岐にわたり、例えば以下のような役割を日々こなします。
- 工程管理
- 日別のスケジュール通りに工事が進むように職人を配置し、作業順序を調整する。
- 日別のスケジュール通りに工事が進むように職人を配置し、作業順序を調整する。
- 品質管理
- 図面や仕様書に基づいて正確に施工されているかをチェックし、不具合があれば即修正。
- 図面や仕様書に基づいて正確に施工されているかをチェックし、不具合があれば即修正。
- 安全管理
- 現場の安全ルールを徹底し、事故防止のための点検を行う。
- 現場の安全ルールを徹底し、事故防止のための点検を行う。
- 予算管理
- 工事の進行に伴う追加費用や削減案を把握し、発注者に報告。
- 工事の進行に伴う追加費用や削減案を把握し、発注者に報告。
- 発注者対応
- 定期的な進捗報告、仕様変更の相談、検査の立ち会い。
- 定期的な進捗報告、仕様変更の相談、検査の立ち会い。
日本では、この現場監督が常に現場にいるのが当たり前であり、工事が円滑に進むためには欠かせない存在です。
台湾の現場に“監督”が少ない理由
台湾でも「工地主任(工地主任/工地主任)」に相当する立場はありますが、日本のように常駐して細かく管理することは少ないです。その理由はいくつかあります。
- 職人の裁量が大きい
台湾の職人は、それぞれの分野での経験が豊富で、自分の作業手順を熟知しています。そのため、細かい指示を出すより「任せる」文化が強いのです。 - 分業が明確で、工種間の干渉が少ない
例えば、電気工事の職人は電気だけ、塗装職人は塗装だけを担当し、他の分野にはほぼ関わりません。結果として、総合的に指揮する人物がいなくても作業が進むケースが多いのです。 - コスト構造の違い
台湾では現場監督を常駐させる人件費を削減する傾向があり、その分を工事費や材料費に回すことがあります。
このため、日本側から見ると「監督がいない現場=管理が甘い」という印象を持ってしまいがちですが、台湾ではむしろ「必要な時だけ現場に来れば十分」という感覚です。
職人への指示方法の文化差
日本では、現場監督が図面や工程表に基づいて職人に細かく指示を出します。
作業手順や使用材料、仕上げの方法まで、事前に明確化し、それを守らせるのが基本です。
一方、台湾では、職人への指示はかなり大まかです。
例えば「この壁は白く塗ってください」という程度の依頼でも、職人が自分の判断で下地の仕上げや塗り方を決めてしまうことがあります。
結果的に、日本の仕様書通りにならない場合があり、それが品質トラブルにつながることもあります。
この違いを理解していないと、日本側が「ちゃんと指示したのに違う仕上げになった」と感じ、台湾側が「言われた通りにやった」と主張する平行線の状態に陥ります。
現場管理の責任の所在の違い
日本では、現場で起きたミスや遅延は基本的に現場監督の責任です。
監督はその責任を負う覚悟で現場を仕切ります。
台湾では、ミスや遅延の責任は個々の職人や工事業者に帰属します。
つまり、電気工事でトラブルがあれば電気工事業者が責任を負い、塗装の不具合は塗装業者の責任になります。
総合的な管理者がいないため、トラブルが複数工種にまたがると、責任の押し付け合いが発生しやすいのです。
この構造の違いを理解しておくと、日本側が台湾の現場をどうフォローすべきかが見えてきます。
日本企業が台湾で現場を任せるときの注意点
台湾で現場を円滑に進めるためには、「日本式の監督役」を日本側から配置するか、台湾側に責任者を明確に指名することが重要です。
具体的には以下のポイントが有効です。
- 現場責任者を契約書で明確化する
- 誰が最終判断を下すのかを事前に決め、書面で合意する。
- 誰が最終判断を下すのかを事前に決め、書面で合意する。
- 週1回以上の現場確認を行う
- 日本側担当者、または信頼できる現地代理人が現場を定期的に確認する。
- 日本側担当者、または信頼できる現地代理人が現場を定期的に確認する。
- 指示は書面と写真で残す
- 口頭だけではなく、メッセージアプリやメールで残すことで誤解を減らす。
- 口頭だけではなく、メッセージアプリやメールで残すことで誤解を減らす。
- 仕上げサンプルの承認制度を導入する
- 実際に施工する前にサンプルを確認し、承認してから進める。
- 実際に施工する前にサンプルを確認し、承認してから進める。
- 現場間の横の連携を強化する
- 工種間の調整は現場責任者が必ず行うようルール化する。
- 工種間の調整は現場責任者が必ず行うようルール化する。
結論として、日本と台湾では「現場を誰が仕切るのか」「責任を誰が持つのか」という根本的な考え方が異なります。
日本式の現場監督は、台湾ではそのままの形では存在しないため、日本企業が台湾で成功するためには、この役割のギャップを埋める仕組みづくりが必要です。
逆に言えば、この違いを理解し、現場管理のルールを最初から明確化すれば、台湾でも日本同様の品質と納期を実現できます。
コミュニケーションが生む工程差
日本と台湾の店舗内装工事の現場を比べると、工程の進み方に大きな差が出る原因のひとつが「コミュニケーションの方法と頻度」です。
同じ図面を使い、同じ材料を使い、同じ納期を設定しても、最終的な仕上がりや進捗に差が出るのは、単に技術や品質の問題ではなく、やり取りの仕方に根本的な違いがあるからです。
日本の「事前報告・承認制」とは
日本の現場では、「作業を始める前に必ず報告し、承認を得る」という文化が根付いています。
たとえば、天井の塗装色を変更する場合、まず現場監督が施主(発注者)や設計者に提案し、正式な承認を得たうえで職人に指示します。
承認のプロセスが終わるまで作業は進めません。
この仕組みは時間がかかる反面、「誰がいつ何を決めたのか」が明確になり、後からトラブルになりにくいという大きなメリットがあります。
万一問題が発生しても、責任の所在がはっきりしているため、対応も迅速です。
台湾の「現場で即決」の良さとリスク
台湾では、現場で職人や工事責任者がその場で判断を下し、すぐに作業を変更することがよくあります。
例えば、現場で予定していた照明器具の取り付け位置が図面通りだと天井梁に干渉する場合、日本なら一度工事を止めて関係者に確認を取りますが、台湾では「じゃあ少しずらそう」とその場で変更することが多いのです。
この即決スタイルは、スピード面では非常に有利です。小さな調整をいちいち持ち帰らず、その場で解決するため、作業の流れが止まりにくいのです。
しかし、その判断が日本側の意図と食い違っている場合、後からやり直しが発生し、結果的に工期やコストが増えるリスクがあります。
打ち合わせの頻度と内容の違い
日本では、現場が始まると定例打ち合わせが週1回以上のペースで行われます。
しかも、参加者は現場監督、設計者、発注者、主要な工事業者と多岐にわたります。会議の議事録も必ず残し、それが正式な指示書になります。
台湾では、打ち合わせの頻度が低く、参加者も限られます。
特に現場責任者と職人だけで決めてしまうことがあり、その内容が発注者や設計者に共有されない場合があります。
日本側からすると「知らない間に変わっていた」と感じる一因です。
誤解を減らすための指示の出し方
日台の現場でよく起きるトラブルは、「言った・言わない」の水掛け論です。
これを防ぐためには、以下のようなルール作りが効果的です。
- 口頭指示は必ず写真や図面で補足
- 施工部分の写真に書き込みを入れ、指示を可視化する。
- 施工部分の写真に書き込みを入れ、指示を可視化する。
- メッセージアプリで履歴を残す
- LINEやWhatsAppなどで指示を送り、既読を確認する。
- LINEやWhatsAppなどで指示を送り、既読を確認する。
- 重要な仕様変更は二言語で記載
- 日本語と中国語の両方で残すことで、言語の解釈違いを防ぐ。
- 日本語と中国語の両方で残すことで、言語の解釈違いを防ぐ。
- 週ごとの進捗報告フォーマットを統一
- 写真、コメント、次週予定をセットで報告させる。
- 写真、コメント、次週予定をセットで報告させる。
こうした方法は、単に誤解を減らすだけでなく、日本側の安心感を高め、台湾側の自主性も保てるため、両者の信頼関係を強化します。
翻訳・通訳の質が工程に与える影響
台湾でのプロジェクトでは、通訳や翻訳を介する場面が多くあります。
しかし、建築や内装の専門用語は一般的な通訳スキルだけでは対応が難しい場合があります。
例えば「天井下地」「目地」「ケーシング」といった用語は、正しく翻訳されないと施工内容が誤って伝わります。
過去には、通訳が「クロス貼り替え」を「塗り替え」と訳してしまい、現場が誤って塗装作業を行ってしまった例もあります。
このようなミスは、工程の遅れや追加コストに直結します。
そのため、日本企業が台湾で工事を行う場合は、「建築・内装用語に精通した通訳」をアサインすることが極めて重要です。
さらに、設計図面自体に中国語と日本語の両方を併記しておくことで、通訳に依存しない情報共有が可能になります。
結論として、日台の工程差の背景には、文化や習慣の違いだけでなく、コミュニケーションの構造的な差があります。
日本式の「報告・承認」の徹底は品質を守りますが、スピードは落ちます。
台湾式の「現場即決」は迅速ですが、情報の非共有によるリスクを伴います。
台湾で成功するためには、日本側が「報告・承認の基準」をあらかじめ明確にし、全てを細かく承認するのではなく、「重要なポイントだけは承認必須」とするルールを設定することが有効です。
そうすれば、台湾側のスピード感を活かしつつ、日本側が求める品質や意図を守ることができます。
日台の強みを融合させた工程管理術
これまでの章で、日本の工程管理は「計画の精密さ」、台湾の現場は「柔軟な対応力」に強みがあることを見てきました。
しかし、実際の国際プロジェクトでは、どちらか一方のやり方だけではうまくいきません。
日本式をそのまま台湾に押し付ければ現場が動きにくくなり、台湾式だけでは納期や品質の安定感が欠けてしまいます。
そこで必要なのは、両国の長所を組み合わせた「ハイブリッド型工程管理」です。
これは、私が台湾で数十件のプロジェクトを経験し、日本企業のオーナーや設計者、台湾の施工会社の双方と向き合う中で確立してきた方法でもあります。
日本の精密性+台湾の柔軟性が生むメリット
この融合型の管理方法では、以下のような効果が期待できます。
- 納期遵守率が上がる
- 日本式の節目管理で、工期全体の遅延を防止。
- 日本式の節目管理で、工期全体の遅延を防止。
- 現場の停滞が減る
- 台湾式の順序入れ替え対応で、資材遅延や人員不足時にも作業を継続できる。
- 台湾式の順序入れ替え対応で、資材遅延や人員不足時にも作業を継続できる。
- 予算オーバーを防ぐ
- 日本式の詳細工程と台湾式の現場判断を組み合わせ、無駄な手戻りを減らす。
- 日本式の詳細工程と台湾式の現場判断を組み合わせ、無駄な手戻りを減らす。
- 現場の士気が高まる
- 台湾側の裁量を尊重することで、現場の主体性とモチベーションを維持。
- 台湾側の裁量を尊重することで、現場の主体性とモチベーションを維持。
臨機応変に動ける体制の作り方
融合型の工程管理を実現するには、まず「どこまでが現場裁量で、どこからが発注者承認なのか」を明確にする必要があります。
例えば、私が採用しているルールでは、
- 承認必須項目
- 仕上げ材の変更
- 設計意図に関わる寸法変更
- コストや納期に影響する工種順序の変更
- 仕上げ材の変更
- 現場判断可能項目
- 作業の開始時間や職人の手順変更
- 図面に影響しない軽微な施工方法の調整
- 他工種との作業順序の入れ替え(影響が軽微な場合)
- 作業の開始時間や職人の手順変更
こうした線引きを事前に共有することで、日本側は重要な部分のコントロールを保ち、台湾側は日常的な判断をスムーズに行えるようになります。
工程の見える化で日台の信頼を高める
融合型管理の中で特に効果的なのが、「工程の見える化」です。
これは、現場の進捗を写真・動画・簡易工程表などでリアルタイムに共有する仕組みで、日本側の安心感を高めると同時に、台湾側の負担を最小限に抑えることができます。
具体的な運用例は以下の通りです。
- 週次レポート
- 工程表(週単位)+写真5〜10枚+短いコメントをセットで送付。
- 工程表(週単位)+写真5〜10枚+短いコメントをセットで送付。
- 節目ごとの動画報告
- 下地完成時や仕上げ前など、重要工程で1〜2分の動画を撮影し共有。
- 下地完成時や仕上げ前など、重要工程で1〜2分の動画を撮影し共有。
- オンライン進捗会議
- 2週間に1回、Zoomなどで日本側と現場責任者が直接会話。
- 2週間に1回、Zoomなどで日本側と現場責任者が直接会話。
この方法は、双方の誤解を減らし、同じ「現場の空気感」を共有できるため、日台間の距離をぐっと縮めます。
問題発生時の即時共有ルール
融合型管理では、「問題は早く、簡単に、正確に」共有するルールが重要です。
台湾式の現場即決は強みですが、問題の存在自体を日本側が知らないまま工事が進むと、後戻りコストが膨らみます。
私が実践している方法は、3ステップ即時共有ルールです。
- 写真または動画を撮る(現場状況をそのまま記録)
- チャットで状況を短く説明(中国語+日本語)
- 判断期限を添えて質問(例:「2時間以内に回答してください」)
このルールを徹底するだけで、日本側は即座に判断ができ、台湾側も作業を止めずに進めやすくなります。
日台プロジェクト成功のための工程管理の未来形
将来的には、日台の工程管理はさらにデジタル化し、物理的な距離を感じさせない環境が整うと考えています。
例えば、クラウド上で双方が同じ工程表をリアルタイムに更新し、写真・動画・3Dモデルを添付することで、日本にいながら台湾の現場を「歩き回る」感覚を持てるようになるでしょう。
また、AIによる進捗予測や、工程の自動アラート機能を使えば、遅延やトラブルの兆候を早期に検知できます。
すでに台湾の一部の施工会社では、ドローンや360度カメラを使って現場を記録し、日本の発注者がそのデータを確認する事例も増えています。
このように、融合型工程管理は単なる折衷案ではなく、両国の文化的背景や強みを活かしながら、テクノロジーを駆使して進化していくべき手法です。
結論として、日本の精密性と台湾の柔軟性を融合させた工程管理は、納期・品質・コストの三拍子をそろえて守れる唯一の方法です。
そして、この手法を使いこなすことは、単なる工事管理を超えて、日台間の信頼関係を長期的に築くための基盤になります。
現場は日々変化し、完璧な計画など存在しません。
しかし、計画と柔軟性の両輪を持つことで、変化を「想定外」ではなく「想定内」に変えることができるのです。
それこそが、日台協業の未来を明るくする工程管理の形だと、私は確信しています。
まとめ
日本と台湾の店舗内装工事における工程管理の違いは、単なる進め方の差ではなく、文化や価値観、そして現場の運営構造の違いから生まれています。
日本は計画通りに進める精密さを武器に、納期と品質を安定させる仕組みを築いてきました。
一方で台湾は、その場で判断し臨機応変に動く柔軟さによって、突発的な問題を最小限に抑えています。
しかし、この二つの方法論は「どちらが正しい」ではなく、「どう組み合わせるか」が鍵です。
日台ハイブリッド型の工程管理は、日本のオーナーや設計者が安心できる節目管理と、台湾の施工現場が得意とする迅速な対応を融合させます。
それにより、納期・品質・コストのバランスが取りやすくなり、さらに両国の信頼関係も深まります。
本記事で紹介したように、承認必須項目と現場判断可能項目の線引き、進捗の見える化、そして即時共有ルールの設定は、日台プロジェクトの成功に欠かせません。
最終的には、こうした工夫が「日本企業が台湾現場を信頼できる環境」を作り、台湾現場が「日本式の要求にも自信を持って応えられる現場」に進化していきます。